第23話 なまだしあ
太一が女の子の手を取って必死に走っている間、女の子は余裕を持ってその様子を見ていた。男の太一よりも体力があるのだ。自分には他の人とは違い体力も気力も魅力もあることを、女の子は自覚していた。だから、息を切らせて走る太一に合わせて、疲れたような演技をしていた。彼女にとって、演技はお手の物だった。
「も、もう少し、だから、が、頑張って!」
女の子の演技を真に受けた太一が女の子に気を遣い、声をかける。そして、半歩後ろを走っている女の子の顔を見た。かわいらしい顔をしていた。太一には、その顔に見覚えがあった。天才子役といわれた、なまだしあだ。なまだしあには、2ショット写メをSNSにアップすると幸せになれるなどという、都市伝説がある。太一は女の子の正体に気付くと驚いて、思わず声を上げてしまう。
「あっ、なまだしあだ!」
「ちょっと、辞めなさいよ。みんなに気付かれるでしょう」
「そ、そう、だ、ね。ご、ごめん、な、さい」
太一は、これでようやく合点がいった。なまだしあが逃げている理由は写メを撮らせないためで、怪しいおっさんたちが追う理由はその写メを撮りSNSにアップするためというのに違いないのだ。
「何よ。もう息が上がったの? だらしないわね」
なまだしあは、太一が普通の男なら息が上がっても当たり前の距離を走っていることを理解していたが、それでも速度を落としている太一に文句を言った。
「ははは、たしかに。そうかもしれない」
「あの頃は、あんなに速かったのに!」
太一はなまだしあにそう言われてしまい、心底落ち込んでいた。10年前に出会った頃とは、大分状況が違うから仕方がないのだが。
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