第22話 逃げる者
和泉橋を渡ると、秋葉原の街並みが広がる。昭和通口の改札前にある開けた狭い公園に待ち合わせの人の賑わいを見たとき、太一はギョっとしてしまう。逃げる者がいたのだ。人混みを掻き分けて走るのは、背の低い女の子だった。追っているのは怪しいおっさんたち。増殖しているようで、女の子が逃げれば逃げるほど、追う者の列に加わる人の数は増えている。宅配便の配達員やタクシードライバーなど、どう考えても仕事中という感じの者までいるから、騒動はどんどん広がっているようにも感じられる。
「全く、何なのよ! あんたたちはー!」
女の子の悲痛な叫び声がこだました。すると、その声に反応するようにして、追う者の数はさらに増えていった。太一は、その声に聞き覚えがあったが、思い出す暇がなかった。インチキ占い師が言ったことが現実に起こっているのだから、無理はない。なぜ逃げているのかを確認する暇は、今はない。そんなことよりも、困っているであろう逃げる者を助けなければならない。
「こっちだ。こっちへ来るんだ!」
太一は逃げる者に声をかけた。女の子はちらりと太一を見たあと、暫く考えてから太一の言う方へ進路を変えた。
「いかん。隘路に入られる」
「心配はない。あそこは1本道。出口に先回りできる」
追う者は、決して烏合の衆ではなかった。その大半はそうなのだが、数名は万端の準備を調えていたらしく、街の構造に詳しかった。直ぐに2つの隊列に編成され、一方は直接女の子を追いかけ、もう一方は道の先にある別の隘路を目指した。挟み撃ちしようとしているのは、女の子にも分かった。
「だっ、大丈夫なの?」
女の子は不安を口にした。だが、太一は少しも慌てることなく、女の子と合流、手を取り走り出した。
「心配ないよ。あっちは工事中だから」
東京は、オリンピックを前にあちこちで開発が進んでいる。それはここ、秋葉原界隈も例外ではない。太一が言うように、回り込もうとしているおっさんたちが入ろうとしている道は、曲がって直ぐに通行止めになっていた。事前の下見が仇となり、この日からの工事開始を見落としていたのだ。
「さぁ、急ごう!」
こうして太一は、わけのわからないまま、女の子の手を取って走り続けた。
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