第21話 インチキ占い師
学校からの帰り道、太一は急いでいた。あゆみの受け入れの準備をしなくてはならないのだ。学校が終わるのが15時、あゆみが来るのが17時半だから、片道1時間の下校を少しでも縮めて、準備がしたいのだ。だが、そんな日に限って、太一はある事件に巻き込まれてしまう。
神田川に架かる和泉橋の袂、急ぐ太一に話しかける人物がいた。
「そこの君、女難の相が出ておるぞ!」
頭に宗匠頭巾を被った和装の中年男性で、白いクロスを掛けた机を出して客を募っている。まばらに生えた口ひげが印象的な占い師だ。太一は思わず立ち止まってしまう。
「突然そんなこと言うなんて、失礼じゃないですか」
急いでいるのだから、無視して走り去っても良いものだが、女難と聞いてあゆみのことを想起してしまい、脚が鈍ったのだ。
「安心せよ。今すぐ対処法を占って進ぜよう!」
「良いですよ。どうせロクなこと言わないだろうし」
「まぁ、そう言うでない。直ぐに終わるから」
「それが余計に怪しいんですよ」
太一が言うのを無視するように、無言で占う占い師。その手に握られた細い棒は、右手と左手を何度も往復する。手際が良く、美しさがある。太一はそんな立居振舞に弱く、次第にその動きを追うのに夢中になった。
「出たぞ、良い対処法があるぞ」
「本当ですか! 一体どうすれば良いのでしょうか」
占いの結果が出る頃には、太一はすっかり占い師を盲信するようになっていた。占い師の次の一言を、首を長くして待つ太一。
「逃げる者を助けよ! さすれば開運間違いなしじゃ」
「逃げる、者? 一体どんな者です? 犯罪者ですか?」
「そこまでは儂にも分からん」
「……。」
「自分で考えよ!」
「なんだ。インチキ占い師か……。」
盲信していた太一だが、自分で考えろと言って突き放され、信じるモノを一瞬で失い悪態を吐く。占い師は言われ慣れているようで、蛙の面に何とやらという感じで、全く動じることなく、右手をそっと差し出し、見料を請求した。太一は渋々、財布を取り出した。
「アダモpayでも良いぞ」
アナログな太一は現金しか持ち合わせておらず、街の占い師が電子決済サービスを利用していることに驚きながらも、堂々と野口英世を1枚、インチキ占い師に渡した。
「まいどーぅ! 逃げる者が現れたら、直ぐに助けるんだな」
太一は、金輪際怪しいインチキ占い師に関わるのは辞めようと思った。
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