第19話 巫女やらない?

 お茶を入れるだけの姿。家事労働にはどこか美学がある。無駄のない動き、道具の数々、雑音とは違う生活音のリズム。男が女を見るときも、女が男を見るときも、家事労働の美しさというのは、大抵は惚れ直させるものだ。太一には、あゆみにそう思わせるだけの美的な手際の良さがある。あゆみは、自分にはそこまで美しく動くことができないと思った。


「どうぞ!」

「いただきます」


 味はどうだろう。あゆみには不味いとは思えないが、飲んでみなければ分からないのも事実だ。あゆみはそーっと湯呑みを口に運ぶ。熱過ぎず冷た過ぎず、スーッと入っていき、渇いたあゆみの喉を潤す。美味い。あゆみは喉を鳴らす。


「マスターって、何をやっても上手なのね」

「ははは、大袈裟だなぁ」

「ううん、とっても美味しいよ」


 そして、太一はゆっくりと本題に入る。はじめは混乱のあった太一だが、お茶を入れただけでいつのまにか平静を取り戻す。あゆみの方は、少しだけ胸をドキドキさせている。


「ねぇ、あゆみ。巫女やらない?」

「えっ……。」

「俺、今日から宮司やってるんだけど、手伝ってくれる人が必要なんだ」

「はいっ。喜んで!」


 普通はそうは思わないものだが、このときのあゆみには、太一の言っていることが、プロポーズのように思えた。それも、『一緒に暮らそう! 級』の、かなり濃厚なものだ。だが、いや、だからこそ、あゆみには何の躊躇いもなかった。


 こうして、あゆみは巫女になることを了承した。

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