第18話 気持ちイイー!

「うっふふふ。マスター、なんだか変なの」

「まぁね。お互い6年もあれば、いろいろな経験をするものだろう」

「そうね……。いろいろな経験をしてきたわ。でもね」

「でも?」

「私、マスターを窓越しに見てたときが、1番、気持ちイイー! ってなったわ」

「気持ちイイー! って?」


 あゆみは、本当は小4のときに伝えられなかったことを伝えようと思っていた。だが、太一を目の前にしてこうして話をしていて思い出したのは、幼稚園のときのことだった。


「年長のとき、マスターがビクターになった瞬間のこと」

「集団嘔吐事件の日……。」

「そう。その日ね、マスター、光ってたでしょう」

「……。」


 太一に緊張が走る。もしかすると、あゆみは全てを知っているのかもしれない。そう思ったからだ。


「発光体質っていうの? 不思議な光だった。とても暖かくって!」

「嘘だ! そんなの嘘だ!」

「キャッ」


 太一は思わず大声を出してしまう。多くの人をパニックに陥れ、嘔吐させてしまう光が、暖かいとか、気持ちイイー! とか言われて、揶揄われていると思ったのだ。その大声に、あゆみは一瞬耳を塞ぐ。だが、続くあゆみの反応は、太一が予想しているものとは違っていた。あゆみは一歩も引かなかった。だから、太一は逃げることも遠ざけることも受け入れることもできず、しばらくは、ただ呆然とあゆみの言うことを聞くことしかできない。


「信じてもらえないかも知れないけど」

「……。」

「そのときに思ったのよ」

「……。」

「私、マスターにずっと憧れていた」

「……。」

「私はあのときのマスターが大好きで」

「……。」

「光を放つマスターが大好きで」

「……。」

「みんなを熱狂させるマスターが大好きで」

「……。」

「私もああなりたいって、ずっと思ってるの」

「……ありがとう。とりあえず、入ってよ」


 あゆみの発言は、太一を大いに混乱させた。あゆみが言うように不思議な光には人を気持ち良くする力があると思えないのだ。だが、太一の中に、ほんの少しだが希望が見えた。太一は、その光が人を苦しめるものなのか、熱狂させるものなのか、どちらにしてもその光から逃げることはいけないことなんだと思った。


 だから、太一は確かめなければならなかった。あゆみは巫女になるのかどうか。恵みを運んでくれるのかどうか。まずは社務所の応接室に案内し、お茶を振る舞うことにした。そして、巫女にならないか聞いてみようと思った。

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