第17話 あゆみの成長②

 今、太一の目の前にはかつてのねむり姫がいる。眠らなくなったねむり姫は、今ではさらに活動的になっている。いや、太一の目からは、あゆみは小4のときとはまるで別人なくらい、輝いて見えた。あの頃、あゆみからプレゼントをもらったことは、太一も覚えている。マスターと呼ばれることに慣れ、親切にしてもらうことに慣れ、相談されることに慣れていた頃で、太一にとっては最も充実した頃だった。


 太一の中で、ふとした思いが過ぎる。光龍様のいう巫女とはあゆみのことだろうか。だとしたら、少しやり難い。太一には当時と今では、まるで別人だという自覚がある。あの頃の太一は、悩みがないのが悩みだというくらい、未来は明るいものと信じて疑わなかった。ところが、小5のときの集団嘔吐事件を切っ掛けに、太一の心はすっかり捻くれて、荒んでしまった。


 陰から陽へと変貌を遂げたあゆみ、陽から陰へと堕ちた太一。変化の方向は真逆だった。太一はあゆみになんと返せばいいのか分からなかった。


 太一の洞察は、あゆみの今に及ぶ。今のあゆみが小5のときの集団嘔吐事件のことを知り、幼稚園の頃のそれとの関連を疑ったとき、果たしてあゆみは、今のような眩しい笑顔を太一に向けるだろうか。幼稚園の頃、あゆみは嘔吐しているのを、太一は知っているから、余計にそう思ってしまう。自分を不快にした不思議な光を放つ男を、許すはずがないと。再会しなければ、もう1度お別れすることもないのだ。友達をごっそり消失するような経験をしている太一にしても、何も知らずに近付いてきたあゆみがいずれは自分の元を去るのではないかと思うと、それは恐怖でしかない。だが、運命のいたずらか、光龍様のお導きか、太一はあゆみと再会した。どうすれば良いのだろう。太一は考えながら、ゆっくり息を整えてから言う。


「そう。それは、お疲れ様」


 言葉と笑顔を振り絞るのに、こんなにも勇気がいるものとは、太一は思っていなかった。

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