第16話 あゆみの成長
あゆみが太一に恋慕を抱いたことの他に、この事件を通して変化したことが2つある。1つ目は身体の変化。それまでの病弱が嘘のように、元気になった。そして、もう1つが、気の持ちようの変化である。これまでのあゆみは、病弱なことや周囲の大人が妙に優しく庇ってくれることに萎縮して、何をするにも勇気が持てなかった。それが、嘘のように積極的で外向的になる。この頃から眠らなくなったねむり姫と呼ばれるようになる。
あゆみには夢中になれるものがいくつもできた。決して一途ではないが、そのときどきのあゆみにとっては、世界の中心そのものだった。最初はお笑いライブ、次いでスポーツ観戦と、熱狂の中に身を置くことが、何よりも楽しくなる。アイドルの追っかけをしたこともある。だが、それらはあゆみに対して充分な熱狂を与えるものではなかった。何かが足りない。そう思い続けていた。
小4の頃、1つの転機を迎えた。海外への引越しだ。それを知らされたときに浮かんだのは、幼稚園のときに強く抱いた太一への思いだった。この頃の太一は常に熱狂の中心にいた。
(もしかしたら、私はマスターみたいになりたいのかもしれない)
熱狂する側からさせる側へ。あゆみの興味は自然に移っていく。だから、絶対にしなければならないことがあった。それは、太一に思いを告げること。気が付けば師走も半ばを過ぎていた。あと数週間で日本を発たなければならないという土壇場で、ようやくあゆみは行動に出た。プレゼントを渡し、告白することだ。それまでのあゆみは太一を遠くから眺めているだけで、喋ったことは1度もなかった。積極的に趣味の活動をするようになっても、恋愛の活動は別なのだ。だが、時間がないことがあゆみの背中を押した。
プレゼントを渡すことには成功した。しかし、お邪魔な奴がいて充分にはなすことはできなかった。だから、想いを伝えることはできなかった。だが、あゆみには不思議と後悔はなかった。次に会うときは必ず、このときに抱いた想いをぶつけられると確信していた。
だから、6年振りに帰国した今日、こうしてここへ来たのだ。
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