第9話 応援団長はマスター
「位置について、用意」
ードンッー
号砲が鳴り響く。A男が好スタート。B男も危なげなく走る。紅組が僅かにリードを保ち、バトンは3番走者の本島の手に渡る。
「あっ……。」
本島は足を滑らせる。転倒せずに持ち堪えたものの、白組の選手が前へ出る。
「何よ!」
「モトジメったら!」
「そうよそうよ。だらしないわ」
「アッカンベエ!」
「ベエ!」
「ベエ……。」
紅組応援席からは、世にも珍しいブーイングが溢れる。
(おっ、おいしーい!)
そんな逆境を跳ね返してしまうのが本島だ。1度は数メートルに達した差を、数十センチまで縮め、最終コーナーをターン。紅と白が並走する形でテイクオーバーゾーンへ突入する。最後のバトンタッチ。両組とも練習の成果を発揮。淀みなくアンカーの手にバトンが渡る。
第1コーナー、第2コーナーとも、前に白、後ろに紅の態勢。バックストレートでも変わらず、第3コーナーへ突入。大声援が学校中に響く。どちらが勝ってもおかしくないが、白組がやや有利。そのとき。
「C男、外へ行け! ボーイズビーアンビシャス!」
張り裂けんばかりの大声で太一が叫ぶ。その声は、C男に届く。ボーイズビーアンビシャス、華の最終組でビクターの座を競い合った者ならば、誰でも胸に刻んでいる言葉だ。
(そうか。こいつは、身体は大きいが、律儀なところがある……。よしっ!)
C男は白組アンカーの性格を思い出し、太一が言うように半歩外へ膨れる。直ぐにC組のアンカーはそれに気付く。
(俺が外に膨れると、進路妨害したみたいになる……。)
白組のアンカーは瞬時にそんなことを考えてしまう。そう考えさせることこそが、C男が半歩外へ膨らんだ理由だった。太一とC男の思惑通り、白組アンカーの身体はかたくなる。ほんの少しスピードを落としてしまう。その隙にC男は逆転。身体半分の差ながら、4コーナーを曲がり切る。そしてそのまま先頭でゴールテープを切る。C男を信じて託した太一にとっても、とても嬉しい瞬間となる。
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