第8話 疾風のように現れるマスター
運命の日。まず、太一の母親の手術は成功。太一の『発光体質』のことも『集団嘔吐事件』のことも知らない執刀医が、妙に気を利かせて、手際良く手術を行ったからだ。これは、太一の母親の誤算だった。太一は手術の成功を見届けると、小学校の運動会に駆けつけた。喜びをみんなと分かち合いたかったから。
正門前、現れた太一の周りには瞬時に数百人もの児童が集まる。競技の中断に、苛立つものはいない。紅白の帽子に偏りなく、ほとんどの児童が、太一を出迎えているのだから。
「マスター!」
何人もの声が重なる。驚く者、ときめく者、熱り立つ者、その反応はまちまちだが、共通しているのは喜びと興奮。
「成功! お母さんの手術、成功!」
「やったぁ!」
「良かった、本当に良かった」
全員から祝福を受けた太一は、紅組席の正面に陣取り、長いハチマキを締める。もう間もなく、最終種目の紅白対抗リレーがはじまる時間なのを知っていたのだ。
「間に合ったんだから、マスターが走れよ」
C男はそう言って、これからはじまるリレー選手がつけるゼッケンを太一に譲ろうとする。だが太一はそれを笑顔で拒む。
「今年のリレー選手はC男、君なんだ!」
「そんな!」
「ねぇ先生、交代したって良いんでしょう」
「そうよそうよ。交代よ!」
「C男君が、交代するって言ってるんだから」
何人もの女子児童は、すかさず先生に甘え、太一の出場を懇願する。
「ルール上は可能だけど、どうするかはみんなで決めなさい」
話し合いは数分間続く。女子児童達は団結して太一の出場に賛成する。太一は馬耳東風といった趣で応援団旗を手放さない。明菜の手術の成功を祝っているのか、出場せずに応援すると決めたからなのか、どちらにしても力一杯に振り回す。だが、紅組の意見は選手交代賛成に決まりかける。そんな中で反対意見を出したのが本島だった。
「C男は、俺達ときつい練習を重ねてきた。C男、一緒に優勝しよう!」
女子児童たちは一斉にあっかんべーを準備した。
「よし、決まりだ!」
「だろ?」
「だな!」
最後にすかさず太一がそう言ったのでは、賛成派も黙らざるを得ない。結局、C男が出場することになる。
「雄大、A男、B男、C男、頼んだぞ!」
「こうなったら、仕方がない」
「応援よ!」
「そうよそうよ。マスターが応援してるんだから」
「みんなで応援しましょう」
「頑張れC男! 頑張れ、みんな」
競技の中断があったことで、得点集計が間に合う。校長が急遽その得点を読み上げる。
「えー。紅組892点。白組917点」
25点差。リレーの勝者には30点が加算される。勝った方が優勝。否が応にも学校中が盛り上がる。
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