第13話 ふたりの初体験

「始めるぞ」


ミンさんの声を合図に、部屋の中央へと向かう。


「そうか……僕としたことが」


イチミングは、思い出したように小さく独り言を呟き足を止める。


「どうしたんですか?忘れ物?やっぱ杖とか魔法の剣とか使うんですか?」


イチミングの後ろ数歩のところで立ち止まる。


「君は何を言っているんだい……先ほども言ったが、君はまず基礎から学ぶべきなのさ。くだらない事を言って、僕のやる気を削ぐのはやめてくれ」


無表情だから気づかなかったけど、ミンさんやる気あったのか……

元々あんまりやる気無さげに見えたけどなぁ。


「この国では、幼少の頃。己に最も適した精霊のエレムが何かを測る習慣がある。勿論君はそれを体験していない」


振り向き、距離を縮めてくる。


「そうですね。俺のいた世界ではそんな習慣ないですし」


エレムって何だろう。


「まずはそこからという事か。やれやれ、これは本当に重労働だ。給金の交渉を改めるべきだな。……まぁそれは後にするとして。治充、ここに膝を付け」


促されるまま、イチミングの真正面で膝をつく。


「本来、こういったことは僕の専門外だ。多少乱暴になるだろうが、耐えてくれ。勇者の意地の見せ所さ」


何をされるのだろう。

若干不穏な空気を察しているが気のせいだろうか……


すると、小さな掌が俺のこめかみ辺りを挟み込み、瞬間、激痛が走り、思わず呻き声が漏れる。


御構い無しに無表情で続けるイチミング。


左手が頬を滑り顎を捉える。

右手はこめかみから後頭部へと流れ首の付け根から下がり背中へ。


「楽にして受入れろ。舌を噛むなよ」


耳元で囁くように、なんだかエッチィ感じの指導が聞こえたが、それどころじゃない。痛すぎる。痛いのかどうかももはや分からない。ジリジリと脳内を電気が暴れ回っている感覚。虫のように電気が脳内を這いずり回っているような。不気味な不快感。

少しずつ体全体が熱を帯び始める。

全身の感覚が鋭くなり、身体中の産毛が逆立つ。


「僕も、初めてにしては上手くやれてると思のだが、君はどうだい?少し辛そうだな」


声を出したくても出ない。

身体が乗っ取られているみたいだ。


「やはり、強引過ぎたか。悪いがもう暫く辛抱してもらうよ」


イチミングの触れている場所が更に熱を帯びる。とても長い時間が経過した様な錯覚に陥る。

風邪をひいた時の様な、全身の倦怠感に節々の痛みに息苦しさ。正直しんどい。全身が汗ばむ。

そろそろ意識が飛びそうだと感じだ頃に、イチミングから漸く開放される。


「下準備はこれくらいでいいだろう」


いったい何の準備だったのか……

崩れるように地面に手をつき項垂れ、浅く呼吸を繰り返し、息を整える。


「さぁ、勇者様に適したエレムはいったい何かな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る