第9話 ご主人様と呼ばれたい

「ゆ、勇者様っ!」


声のする方へ振り返る。


来た来た俺のメイド!確かこっちがリーチアだったか。

ようこそ俺のハーレムへ!ヒロイン第一号!


マオさんと別れた後、アンナさんと俺はハーレム要員を探すべく城内を散策していた。


アンナさんは、何の為に歩き回っているのかと訝しんでいたが、今後に関わる重要な事だと説得し、同行してもらっていた。


廊下の向こうから小走りに近づいて来るリーチア。


可愛い。


ツリ目がちな目に気の強そうな雰囲気を感じる。ツンデレ属性だな。


外に跳ねた髪に活発な印象を受ける。

両サイドの髪を猫耳風に象っているのが俺的にポイント高い。どうなってんだろうあの髪。

それに、なんと言ってもやっぱメイド服は良い。しかも、アキバ系ミニスカメイドではなく純喫茶風の正統派ロングなのもグッとくる。少し持ち上げ揺れるスカートから見える足首にエロスを感じる。

立ち止り、スカートの重みで自然と際立つ腰のラインがイイネ!


「リーチア。丁度良かった。私は少し私用の為離れるから、ハルミの世話を任せたい」


「私はその為にここへ来たのです!任せてください!」


「ではハルミ、後程また部屋に顔を出す」


「あーはい、お疲れ様です」


何となくバイトのノリで答えてしまった。


だが、これでリーチアと二人きり……なんか緊張して来た。


マオさんもアンナさんも、歳上のお姉さんって感じだったけど、リーチアはたぶん俺と歳あんま変わらないよな。


「勇者様、このリーチアに、何なりとお申し付けくださいませ!」


凄い気合い入ってるな。


「ではまず、一つ頼みがある。勇者様じゃなくて、ご主人様って呼んでもらって良いかな」


こちらは至って真面目だ。メイドには、やはりご主人様と呼ばれたい。


「ご主人様……ですか?確かに一時的に勇者様の専属メイドではありますが、私達の主人、雇い主は、あくまで女王様です。些かややこしくはありませんか?」


正論辛い。いや、そんな真面目に受け取られるとは。もっと軽いノリで呼んでくれれば良かったんだけどなー。


「そ、そうだよね、ややこしいよね、仰る通りです。俺が浅はかでした……。じゃあさ、せめて勇者様じゃなくて、治充様のが良いかな。何なら呼び捨てでも構わないんだけど」


女の子に名前で呼ばれるなんて、それだけでグッと来るものがある。

まぁ、今迄呼ばれた事なんて無いに等しいけど。


「では、ハルミ様……と、呼ばせて頂きます。流石にメイドの立場で呼び捨てなど出来ませんわ」


ハルミ様……なんだかむず痒いな。照れる。


「あはは。まぁ今後ともお世話になるよ。よろしく」


「此方こそ、誠心誠意、ハルミ様にお仕えします。早速ですが、ナツミ様は御入浴を済ませていらっしゃいますが、ハルミ様は如何なさいますか?」


なっちゃん風呂入ってんのか。

人にはあれこれ言っといて、ちゃっかりしてんなー。


「じゃあ、俺も入っとこうかな。着替えとか持ってないんだけど、貸してもらえるのかな?」


「勿論です。物資に関しては、ハルミ様が望まれれば、大概の物は手に入るはずですわ」


「勇者ってそんなVIP待遇なのか。いいなー」


リーチアに連れられて浴場へと向かう。


ふと、違和感を感じる。


リーチア、君は一体どこまでついて来るつもりなんだ。


多分ここ脱衣所だよな。


「……あのぉ、リーチアさん。君はその、いつまでそこにいるつもりかなぁ、なんて」


「はっ!これは、失礼致しましたっ!」


もしかしてドジっ子属性なんだろうか。

まぁメイドにドジっ子は付き物。需要もあるし、俺は良いと思うぞ!


やっと状況を理解したのか、頬を染め、慌てて頭を下げる。


そして、出て行くかと思いきや、俺の目の前にやってきて、シャツのボタンに指を掛ける。


硬直する俺。緊張か興奮か、はたまた期待からか、俺は動けずにいた。


こっ……これはもしや、あれか。

映画とかで見たことあるぞ。

王族の人が召使いに脱衣を手伝わせ、体を洗わせていた…………。


黙々とボタンを外すリーチア。

慣れてやがる……。


だが、俺は脱がされるより脱がしたい!


でもこれ絶対リーチア服脱がないパターンだよなぁ。


まぁ、これはこれで……

でも、特に鍛えてるわけでも無い俺の体は、貧相で、大事な部分も大したことない。

決して小さいわけではないがな!断じて!


でも、見られるにはやはり恥ずかしさが勝る。


そして、ついにリーチアの手が俺のベルトに掛かる。


「ちょっと!何やってんの⁉︎」


今最も聞きたくない声が聞こえた気がする。


ブチ上がっていたテンションも体温も一気に下がる。


「……なっちゃん。……まだ入ってたんだね…………」


浴室から、ロリーナの陰から顔だけ出し、此方を睨みつけている。


「ナツミ様、如何されたのです?何かお気に触ることでも……?」


あくまで状況を理解しないリーチア。

ドジっ子な上、天然属性か……。


「そうね、貴女達姉妹には、少し常識と慎みを教えてあげないといけない様ね」


察するにロリーナもリーチアと同じ事をして、なっちゃんの逆鱗に触れたのだろう。


「とにかく、お兄ちゃんはちょっと出てってよ!」


まぁ、そうなるわな。


「はいよー」


経験人数ゼロの俺には、些か刺激が強すぎたのは確かだ。


だが、ここに来て数日でここまでの展開……今後に期待せずにはおれんな!


この時俺は、持ち前のポジティブさで、唯一にして最大の障害の存在を理解していなかった。


そう、妹。それは、エロ展開を悉く握りつぶして来る厄介な存在である。

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