第6話 お も て な し
「聞きましたか、リーチア」
嬉々としてこちらに向かってくるお姉様。
「ええ、お姉様」
きっと御伺いになったのでしょう。
先程衛兵よりオルガイン様からの言付けを賜った私は、緊張の余り身動きが取れなくなってしまった。
『勇者様が城に滞在される間、リーチア、ロリーナ両名は勇者様専属メイドとする』
とても名誉な事ですが、同時に責任重大。
万が一勇者様に無礼を働けば、国の行く末に関わります。
リーチア、私なら出来る!お姉様もいらっしゃる!
何時も通りに仕事をこなすだけよ。
「仕事を与えられたからには、完璧に、誠心誠意、ご期待に添えるよう尽くすまでよ!」
「リーチア、私も頑張るわ」
私の手を握り微笑むお姉様。
「では早速。入浴の準備は他のメイドが整えたらしいから、私達は勇者様方に、それを知らせに参りましょう」
二人で勇者様の部屋へと向かう
入浴のお手伝い……余り得意ではないけれど、弱音ばかり言ってられないわ。
私はどちらかといえば力仕事が得意であり、繊細さが求められる仕事はお姉様の得意分野。仕事はいつも分担して行っていたけれど、勇者様はお二人。つまりお一人につき一人づつ担当する事になる。
気合いを入れて掛からなければ。
お姉様がドアをノックする。
「勇者様、メイドのロリーナです。入浴の準備が整いましたので、ご連絡に上がりました」
手が汗で湿る。
心臓の鼓動が忙しない。
落ち着くのよリーチア、メイドの意地を見せるのよ!
足音が近づいてくる。
直ぐそばまで来て止まった。
ゆっくりとドアが開く……
「……悪いんだけど、今お風呂に入る気分じゃないんですよね」
ドアの隙間越しに、こちらを覗き込みながら、入浴を断られる。
「まぁまぁ、そう言わずに。気分が塞ぎ込んでいる時は、尚更入られた方がよろしいかと。気分転換にもなりますし」
「ちょっ!」
ぐいぐいとドアをこじ開け勇者様を引きずり出すお姉様。
出遅れた!
流石お姉様。勇者様も観念し、大人しく浴場へ。
「私どもが、何なりと、勇者様のご希望を叶えてみせます。この城にいる間は、不自由はさせませんわ」
勇者様の腕に抱き着きながら歩き続けるお姉様。
……勇者様はもう一人いらっしゃる!
ナツミ様はお姉様に独占されてしまった今、私に出来ることはハルミ様のお世話をする事!
「勇者様、私、大切な用を思い出しました。ここで失礼させて頂きます」
「え、あぁ、別に一人居てくれれば大丈夫だし、好きにしてください」
くっ……!
お前は不要だと、そういう事なのですね。
良いでしょう。ならば、私はハルミ様に尽くすのみ!満足させてみせます!旅立つのを惜しむ程の極上のもてなしで‼︎‼︎
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