第2話 勇者っぽい何か
不味い状況だ。
元々無茶振りだったし、やるだけやってみるか。みたいなノリだった。
だが、結局の所失敗すれば責任を擦り付けられるのは私だ。
断る訳にも行かなかったし、そもそも女王命令に背けるはずもない。
…….めんどくさいなー。
自分で召喚しといてなんだが、送り返してしまおうか。そんな力残ってないけど、見なかった事にしたい。目撃者がこんなにいなければ、力がもう少し残ってれば、何事も無かった事に出来るのに。
国の危機を打破する為の奥の手とは言え、勇者召喚なんて大昔の埃被った本に載ってるような古びた力に頼らなければならない程、国ってそんなにピンチなんだろうか。政治はよく分からん。
とにかく、目の前には国の運命を握る超重要な人間が転がってる。
何故か一人の予定が二人いる。
どっちがおまけかわからないが。
弱そうだな。
正直私の方が強いだろ。
妖精や魔獣なんかは呼び出した事あるけど、今回は勇者だもんなぁ。
コツとか分かんないし。
召喚は釣りに似てる。
釣り餌には己の魔力を獲物の好物に合わせて練り上げ、それに食いついた獲物を見定めて釣り上げる。
だが今回は食いつくのを待つのではなく無理やり適当にそれっぽいのに引っ掛けて全力で力任せに引き上げた。
みんなも薄々気づき始めてる。
こいつら本当に勇者か?弱くね?
ざわつき始めたこの場をどう乗り切ろうか。
つまり、これ本当に勇者か?と問われれば、たぶんね。としか答えられない。
勇者でなくとも、勇者ぽい何かではあると思う。
それなりに鍛錬を積んだ魔導師なら、優れた魔力の持ち主は見ればはわかる。
だが、目の前のどちらにもそれらしき気配はない。
これ、絶対みんなにもバレてるよな。
ここに集まってるのは国の重役ばかりだし、優秀な者しかいない。
たが、この場で最も優秀なのは私だ。
だからこそ面倒な召喚を任されてしまったのだ。
王国最強の魔導師マオルジュ アウニーニ。
私が最強って事は、私がこいつら凄い!って言えばなんかそんな雰囲気になる筈。
私にしかわからない特殊な力を感じるとか、そんな感じで言えばいける気がする。
「ここに、勇者召喚成功を宣言します!この高貴な力!私たちとは異なる特別な力を皆様方も感じ取られているはず!優秀な皆様なら、もうお気付きでしょう。この者達は、伝説の勇者をも超越する凄まじい力を持っていると!」
感嘆の声が漏れ聞こえる。
何とかみんな騙されてくれたようだ。
見栄っ張りが多くて助かった。
「よくやった、魔導師マオルジュ アウニーニ。勇者を二人も。たいしたものだ。褒美は後程。オルガイン、勇者の御二方を迎賓館へお連れしろ」
「御意に」
満足気に微笑む女王に薄ら笑いしか返せない。
命令を受けたマーリアンナは、気を失ったままの勇者二人を両手に抱えて上げ運んで行く。
相変わらずの馬鹿力だな。
しかし、女王直属の騎士に運ばせてるってのは、御偉方も一枚岩ではないって感じだな。
勇者の護衛にしては不穏すぎる。
周囲への威圧も兼ねているのだろうか。
まぁ今となってはどうでも良いか。
私の仕事は終わった。
後は褒美を待つだけ、気楽で良い気分だ。
連休も貰えるし、暫くはゆっくり出来るな。
期待で緩みきった顔が引き攣るのはあっという間の事だった。
女王からの容赦無い命令を受け全身から気力が抜け落ちる。
己の才能が憎い。
初めてそう思った。
「お前には、勇者達と共に旅に出てもらう。詳細はオルガインに確認しろ。以上だ」
簡潔に面倒事を押し付けてくる女王。
何か恨みでもあるのだろうか。
そう思わずにはいられなかった。
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