第1話 玄関めっちゃ眩しい

「ねむぅ……」


 けたたましい目覚まし音に起こされ、若干苛立ちながらも起き上がる。


 毎朝毎朝何故こんなにも怠いのだろうか。

 たまには爽やかに目覚めたいものだ。


 長い溜息をつきながら自室を後にし階段を降りリビングへ


「相変わらずギリギリなんだから。もう少し余裕を持って起きなよね」


 朝から小うるさい奴


「母さんみたいな事言うなよ。妹ならもっと可愛く朝の挨拶が出来ないのかよ」


 可愛いのは顔だけだな


 悪態を吐く俺を横目に目を細める捺実なつみ


「そっちこそ、顔しか取り柄がないんだから、もう少し身嗜みに気をつけなよ。あと今日お母さん夜遅いかもって。てか、可愛く朝の挨拶って何?ゲームのし過ぎじゃないの?キモい」


「兄に対しての扱いが酷過ぎないか、なっちゃん。もう少し兄を敬いたまえよ」


「変な呼び方しないでよ!本当やだ!キモい!」


 年頃の妹を持つとお兄ちゃんは心の傷が絶えないよ。


 負ったダメージを隠しつつ高速で朝の支度を終える。

 結局ゆっくりと朝飯を食べていた捺実と玄関で鉢合う事になった。


「ちょっと!邪魔なんだけど。さっさと退いてよね」


「最近の妹は態度がなっとらんな。実にけしからん」


 玄関で揉めながら靴を履く。

 我が家ではいつも通りの光景だ。


 しかし、今日に限ってはそれで終わらなかった。


 いつもなら、この後家を出た後も、結局向かう先は同じ学校だから、文句を言い合いながらなんだかんだと一緒に登校していた。


 だが今日は、まず玄関を出ることすら出来なかった。


 何故ならば俺達の足元が急に光り始めたからだ。


「ん?なんだこれ?めっちゃ光っとる」


「ちょっと何これどうなってんの⁈えっ、やだっ!なんか足がっ……し、沈んでんだけど⁈」


 お互いテンパりまくっていたが、もはや一周回って冷静な俺だった。


「なんでお兄ちゃんそんなに冷静なの⁈ちょっっ!本当マジで無理!マジキモいマジ怖い‼︎」


 騒いでるうちにみるみる体は沈んでおり、もはや胸から下は光の先に沈んで見えなくなっていた。

 いっその事ストンと落ちてしまいたいところだ。

 こう徐々に沈んでいく感じが恐怖感を高めている。

 捺実は泣きべそかいているし。可哀想になってきた。

 俺は既に諦めモードだ。死ぬかもしれない恐怖はあるが1人じゃないと言う妙な安心感があった。


 喚き散らしている捺実に声をかける。


「なっちゃん!」


 振り返り、不安げな顔で縋るようにこちらを見つめる。


「俺が側にいるから!」


 捺実は涙の筋が残る顔に、少しの安堵の表情を浮かべる。


 今のめっちゃお兄ちゃんぽかったな。

 そんな事を思いながら、とうとう俺達は頭まで完全に沈んでしまった。


 意識が遠退く。


 全身が生温い何かに包まれる。

 なんだか心地よい。


 どうなってしまうんだろう。


 近くに捺実の気配を感じる。


 守らなくちゃ。


 俺は……


 俺は、お兄ちゃんだから…………

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