五話

「こんなとこまで来てくれるなんて、

なんかごめんね?

いやぁー、お役所勤めも大変大変!!」

……大半があなたのせいですが。

私はそう言いたい気持ちをなんとか押さえ込み、

「ええ、まぁ。

でもやりがいのある仕事ですから。」

と答えておく。

「僕、もうこういう仕事は絶対しません……」

「それがいいねぇ、君は!」

だいぶ戻ったようだが、

生気の抜けたような顔だった朔真くんは

未だ青白い顔でげっそりしている。

「それでは、お荷物、

確かにお届けしましたので、

署名を頂いてもよろしいですか?」

またあの森を

朔真くんに抜けさせるのはしのびないが、

一応業務の範囲内、

あまり留まりすぎると時間内に戻れなくなる。

「あー、おっけーおっけー。

……ホイ、空木、と」

「それでは。こちら荷物になります」

署名された紙を受け取り、

代わりに持ってきた荷物を渡す。

「ありがとねー

……いやぁ、便利だなぁ、また頼もうかな」

「…………またご贔屓に」

もしまたこの依頼があったら、

運ぶのはまた私の仕事だろうな。

何も出来ないんだから当然だけど。

出来れば自分でやってください。

その言葉を、言うことは出来ないけれど。

……憂鬱。

「あ、そうだ、君。

こんな所に来ていないで、

早く帰って堕ち者の分野に顔出しなさいね」

「……え?堕ち者、ですか……?」

堕ち者、とは、

何らかの原因によって

魂が穢れてしまった人を指す。

肉体を持たない私達は、

感情や周囲の環境

またら特定のアプローチによって

魂本体が穢れ、形を保てなくなる。

肉体、という器を失って、

魂がブレやすくなっている、

というのが定説で、頻繁にでは無いが

たまに聞く話ではある。

堕ちてしまった人は元に戻ることは出来ず、

浄化するしか方法はない。

……浄化、と言っても魂は輪廻に帰り、

また別の生を歩むことになるのだが。

そして、安心課の業務の中に、

堕ち者に対応する部署もある。

「…どうして朔真くんを?」

術はまだ発言していないと言っていたし、

彼は随分と臆病な気質なので、

そんな部署に行ったらノイローゼになりそうだ。

「彼が堕ち者に対する

効果的な術を持っているからだけど?」

「え?」「は?」

ずず、といつの間に淹れたのか、

お茶を啜りながら空木さんは言う。

「おれはそういう術を持ってるのさ。

他人の秘めたる術を視る、術。」

すごいだろ?

彼はそう言って自分の目をトン、と示した。

「…僕が、堕ち者に対する効果的な術を…?」

体調は吹き飛んだのか、

朔真くんは少し体を乗り出して訊ねた。

「そうだな。

堕ち者特化の光属性、ってとこか?」

「光、属性……」

ピンと来ないのか、

朔真くんは言われたままにおずおずと反復する。

「太陽光を掬いとって、

その熱を冷ましたと考えればいい。

何者にも変え難い浄化の光だ。」

お天道様は闇を払う最高の光だからな。

と空木さん。

……術は、

楓さんのように無属性で特殊なものもあれば、

朔真くんが言われたように、

何らかの属性を帯びているものもある。

術は魂に付随するものだから、

どうしてもその人の個性が出て、

そうなるのだそうだ。

飛鳥は楓さんと同じ無属性。

朔真くんのように属性を持つのは、

あのいけ好かない涼の方。

「軽く目をつぶって、

体内に温もりがあると想像して。

その色は何色だ?」

「……金色?

ホワっと、柔らかく光る黄金色です。」

言われた通りにする朔真くん。

「その光を君の手のひらに移してごらん。

光が体を流れるように。」

ぐ、と眉根が寄る。

口も固く閉じられて、くしゃりと歪んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る