四話
「ひっ!」
「あ、あそこ!な、なにか動きましたよ!!」
「こ、こんな森の中を進むんですか?!」
「ギャーーーーッ、蜘蛛ォーーー!」
……この子、すごくビビりだ。
半泣きで叫んで走って転ぶ、
と言う一連のルーティン?とでも言える流れを、
この短時間で四、五回繰り返した朔真くんは、
見るも無残なくらいに神経をすり減らしていた。
私達はこの世で生きていた時の記憶をなくすから、
実際どうだったのかはわからないが、
この子がこの世でもこうだったのなら、
不謹慎ながら死因は驚き死だったのかもしれない。
……そう思ってしまうくらい過敏だった。
「…か、馨さん……
空木さんの家は、まだなんですか……」
ゼイゼイ、と息も絶え絶えな朔真くん。
休憩を挟んであげたいのだが、
休憩中も驚くので大して休息できていないため、
なら変わらないかと歩き続けてきた。
「うぅーん、もう少し、かな?」
空木さんは人間嫌いなのか、
人の住まない森の中で暮らしている。
……色魔なのにそれはいいのか。
と思うが、街の人からすると、
森の奥に住んでいてください。絶対ですよ。
と言いたくなるらしく、
それが原因だという説もあった。
「い、芋虫!!」
森の中は虫や動物がいっぱいで、
暗いため視界も不良だ。
そのおかげで朔真くんは余計ビビっている。
この世もビックリ、『精魂特定レーダー』は、
あと十数メートルを示しているので、
彼が倒れる前には着きそうなのが幸いか。
「こんにちはー
隠世役所生活安心課のものですけれどもー」
「こんにちはー!!」
到着したのはいいが返事がない。
地面に座り込んでいる朔真くんはさておき、
そろそろ背中の荷物も重いし限界だ。
「もしもし!空木さん!!
いらっしゃらないんですか!!」
私達は肉体がないので、
普通の痛みや疲労、重力などはほとんど感じない。
説明は難しいが、
重さ、感覚は分かるが、
身体に響かないと言った感じだ。
その代わり術や魂用の攻撃手段は、
魂の構成を崩すものなので、
この世の人よりも非常に良く効く。
それによって、この荷物も耐えられたのだけれど
この世の一般人なら潰れる重さなので、
そろそろしんどくなってきているのだ。
「空木さん!!!」
ガンッ
「はァい、どなた?」
伸びっぱなしのスウェットにボサボサの髪。
身体機能は停止しているので
髭は伸びていないものの、
誰が見てもわかるぐうたら生活の男だった。
そして玄関のドアが外開きで強かに顔を打った。
来客の時は気にして欲しい。痛くはないけれど。
「……隠世役所生活安心課の者です。
私は馨。こっちは朔真。
今回は、荷物をお届けにまいりました。」
仕事なので自己紹介も一応しておく。
空木さんは私を見たあと、
蹲る朔真くんを目に止めて若干目を開き、
「あー、そうなの。
じゃあ、上がってってよ。」
と言った。
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