「決意」

 綾乃さんのお墓の前でケンカをしたあの日から、琴乃の泣き顔が片時も頭から離れなかった。


 だからずっと一人で考えていた。


 俺は幼なじみの関係、兄妹のような関係を壊したくないと思っている。


 琴乃のそばにずっといる、と綾乃さんと約束をしたから。


 それ以外の関係でも一緒にいられるよ、と琴乃は言った。


 そしてそれを望んでいるようにも……いや、間違いなく望んでいるのだろう。


 だけど俺は琴乃の考え方を素直に認めたくはない。


 琴乃のいうそれ以外の関係、つまり恋人同士になると、もしかするとすべてが丸くおさまるのかもしれない。いままで以上に楽しい毎日が訪れるのかもしれない。


 でも二人の仲がわるくなったとき、お互いの顔を見るのも嫌になってしまったとき、そしてなにより別れてしまったとき。そうするとずっと一緒にいられなくなる。


 もしかすると二度と会わなくなるということも十分に考えられる。


 そんなふうになるのは嫌だ。俺は琴乃とずっと一緒にいたいんだ。


 もちろんいまの幼なじみという関係でも、そうなることもあるかもしれない。


 だけど男女の仲と違い、そんなことになる可能性はぐっと低くなると思う。


 だから俺はこのままでいたい。


 だけど、ほんとうにこのままでいいのかという疑問が頭の中から消えてくれないんだ。


 なぜだ?


 ……いや、自分の気持ちをごまかすのはもうやめよう。


 もうわかってるんだ。


 あの時気づいたのは琴乃の気持ちだけではないということに。


 俺も琴乃のことを好きだということに。


 だけど今やらなければならないのは、まず琴乃と仲直りをして、また元の幼なじみ、ほんとの兄妹のような関係に戻すことだ。


 そのために、琴乃の気持ち、そして俺の気持ちを犠牲にしてでも。


 琴乃の言うとおり、綾乃さんとの約束に縛られ過ぎているのかもしれないけど、琴乃を大切にしたいという想い、ずっと一緒にいたいという想いだけはどうしても守り続けたいから。


 大丈夫。


 産まれてからいままでずっと一緒に過ごしてきた俺と琴乃だ。


 これから先も二人でうまくやっていけるさ。


 それに、俺の気持ちはまだブレーキをかけられる。


 タイヤがどんなに焦げ付こうとも、俺はグリップを力いっぱい握ってこの気持ちをぜったいにとめてみせる。


 それで琴乃とずっと一緒にいられるのなら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る