第35話 「旧スクとカフェといつもと違う幼なじみ」編 ③

 待つこと数分。


 花奈ちゃんという女の子が持ってきたアイス抹茶ミルクティーを見て俺と琴乃は固まっていた。


「えーと、花奈ちゃん……これは……?」


「ん? 当店自慢のアイス抹茶ミルクですけどー」


 琴乃のクラスメイトは少しいじわるそうにそう告げる


「ことのんが連絡なしでお店に来てくれたからね。サービスの特別メニューを持ってきたよ。どうぞお二人で仲良くお召し上がりくださーい」


 くくっと含み笑いをして厨房のほうへと去っていった。


「ど、どうしよっか、京ちゃん?」


「どうしようって、お前が頼んだんだから責任もって飲めよ」


「で、でも……」


 俺たちの前には、淡い薄緑色の美味しそうな抹茶ミルクが入れられたグラスが、一つ置かれていた。


 二本のストローがささっているいる状態で……


 ……なにを考えているんだよ。琴乃のクラスメイトは。


 こんなカップルが頼むようなドリンクを出して。


「ま、せっかくだし飲もうぜ」


「うん!」


 パアッと表情を輝かせる琴乃。


「じゃあさ、先に琴乃が半分飲めよ。残ったのを俺が飲むから」


「むう。ストローが二本あるのに?」


 頬をふくらませる琴乃。


 え? もしかしてこいつ、 お、俺と一緒に飲みたいのか?


 いや、これを持ってきたとき困った顔してたと思うんだけど。


 とにかく俺は公衆の面前で琴乃とそんなことをしたくない!


「たしかに二本あるな。琴乃の好きなほうを選んで、さっさと飲めよ」


「わたしはどっちでもいいよ……京ちゃんが決めて」


「俺が? いやストローなんてどっちでもいいし。琴乃が決めろよ」


「えー、決めらんないよぉ」


 グラスには白色のストローが二本さされている。


 どちらも同じ色のストローだし、マジでどっちでもいい。


「わかったよ。じゃあ、こっちが俺な」


 俺のほうに口がむいているストローを指さす。


「こっちじゃわかんないよ」


「はあ? だからこっちのストローだって!」


「わかんないから、京ちゃんが選んだストローに口をつけてよ」


 なんだ、こいつ?


「早くしてよぉ!」


「あー、はいはい」


 なんだよ。選べって言ってきて急かすなよな。


 さっさとこの抹茶ミルクを片付けてこの店から出たいし、ここで言い争っていても仕方ない。


 やむをえず俺がストローに口をつけた瞬間――――琴乃がもう一本のストローをくわえてきた。


 え?


 あっけにとられてストローから口を離すことができずにいると、琴乃はそのままごくごくと喉をならす。


「ちょっ、琴乃! なにやってんだよ!」


 俺が慌ててストローから口を離すと、琴乃も同じようにしてぷはーっと息をはいた。


 そして落ち着いた態度で口元をナプキンでぬぐった。


「ん? ストローが二本ある理由を京ちゃんに教えてあげただけだよ?」


「ちげえよ! 周りにたくさん人がいるだろって言ってんだよ!」


「じゃあ、京ちゃんはもう少し静かに話さなきゃだね」


 カフェの客がみんな俺たちに注目していた。


 くそっ、言い返せない。


「はい。わたしの分は飲んだから、残りは京ちゃんのだよ」


「……ったく」


「わたしね、一回でいいからこういうことをしたかったんだ」


「なんだよ、それ。別にいまやんなくてもよかっただろ」


「ダメだよ! ……京ちゃんとしたかったんだから」


 その表情が俺がいままで見たことのない幼なじみことのの顔で……俺はしばらくの間、目をそらすことができなかった。


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