第36話 「旧スクとカフェといつもと違う幼なじみ」編 ④

 カフェを出て、駅まで続く商店街を琴乃と二人で歩く。


 休日ということもあり、人は多いが歩くのに困難なほどではない。


 すれ違う人、特に男性が俺たちをちらちら見ている。


 正確には琴乃を。


 いつものことだから気にはならないのだが、今日は特に見られてる気がする。


 おそらく原因は――――


「へへ、京ちゃん、カフェ楽しかったねー。また行こうね」


「琴乃の友達がお店にいなくて、へんな飲み物を出されないんだったらな」


「えー、行こうよー。花菜ちゃんもまた来てねって言ってたよー」


 満面の笑みで俺の着ているシャツの裾をくいくいとひっぱる。


 そう、原因というのは、琴乃が楽しそうにはしゃいでいるからだ。


 こういうときの琴乃は、幼なじみ目線でも通常の二倍増しにかわいく見える。


 だからなのだろう。さっきから視線を感じるどころか琴乃を賞賛する声もちらほらと耳にはいってくる。


 誇らしく思うが、逆にうんざりもする。


 琴乃のことを外見でしか判断していないからだ。


「いまの子、見た?」


「すげえ、かわいかったな。胸も大きいし」


 ほら、まただ。


 すれ違った高校生っぽい男子二人組の会話が聞こえてきた。


「おい、やめとけって。彼氏がすげえ目で俺たち見てるぜ」


「うお! マジか!」


 なぜか会釈をされて、そそくさと去って行った。


 いや、フツーにチラ見しただけなんだけど。目つき、そんなに悪かったかな?


「……京ちゃん、いまの」


 隣を歩いていた琴乃がぴたりと立ちどまる。


「ん? ああ、お前のことかわいいって言ってたな」


「そ、そうじゃなくて。きょ、京ちゃんが彼氏だって言ってたよね、その………………わたしの」


「そういえば、そんなことを言ってたな。珍しいよな」


「……珍しいの、かな」


「だって、俺らって兄妹って言われることのほうが多かっただろ」


「そうだったよね。ぜんぜん似てないのにね」


 悪かったな。イケメンじゃなくて。


 琴乃に言われると地味に傷つく。


「なんか、今日は、カップルに間違えられるよね」


「いや、よく、ではないだろ」


「そんなことないよ。さっきのカフェでも」


「あれは琴乃が無理矢理したことだし」


 そのときに見せた琴乃の表情を思い出して、胸が高鳴った。


 ほんとなに考えてたんだよ、琴乃は! 恋人同士みたいな真似させやがって。


「でも、水着を買ったときもレジのお姉さんに言われたんだよ」


「なんてだよ?」


「選んでもらったんですか、か、彼氏さんにって」


 うつむいた琴乃の耳が赤く染め上げられていく。


「俺は選んでないけどな。俺は、旧スクのほうがよかったし」


 琴乃は顔をあげると、なぜかキッとした目で俺に詰め寄ってきた。


「だいたいさ、京ちゃんの言う兄妹に見られてたっていうの、何年前の話だよって感じだよ!」


 琴乃は俺の胸に指を突き付け攻め寄ってくる。


 おいおい、なにそんなむきになってんだよ。


「いや、そんなことないだろ! ついこの前だって……」


 あれ? そういえばこいつと二人っきりで出掛けたのっていつが最後だっけ?


「京ちゃんは覚えてないかもしれないけど、高校生になってから初めてなんだよ!」


「……二人で、出かけるのが、か?」


「うん。だから今日はね、京ちゃんのためにオシャレしてきたんだよ」


 あらためて琴乃を見ると、普段はまったくしないメイクをしているのに気づく。


 薄っすらとしたメイクだがいつもよりほんの少しだけ大人っぽく見えた。


 もしかしたらそのせいでカップルと間違えられたのかもしれない。


 体がカッと熱くなった。


 俺と琴乃を恋人同士だと誰かの目にはそう映っていると強く意識してしまったから。


「だから、わたしは、京ちゃんとそういうふうに見られて嬉しかったよ」


 はにかんだように笑う琴乃。


 息がつまった。同時に心臓がばくんとはねた。


 いままでされたどんなエッチな質問でもこんなにドキドキしたことはなかった。


 琴乃は俺のためにオシャレをして……俺と恋人同士に見られたことを喜んで……琴乃はもしかして俺のことが――って! なに考えてんだよ!


 琴乃は俺にとって大切な妹のような存在なんだ!


 他人が俺と琴乃を恋人同士だと思おうが、そんなこと関係ない!


 大事なのは自分の気持ちだ!


 だから俺はこの気持ちがぶれないように、もっと琴乃との関係を強めなければならないんだ!


 俺と琴乃がほんとの兄妹のような関係でいつまでも一緒にいるために!

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