第34羽 「旧スクとカフェといつもと違う幼なじみ」編 ②
「京ちゃん、緊張しなくても大丈夫だよ」
「緊張なんてしてないし!」
琴乃が買い物に付き合ってくれたお礼がしたいということで、いま俺たちはやたらと雰囲気のいい空間にいる。
「ほんとに? ここ、すごくカチカチに固くなってるよ?」
琴乃に触れられて、体がビクッと反応する。
「お、おい! 急にさわってくるなよ!」
「ふふ、強がっちゃって。リラックスしていいんだよ 、京ちゃん。二人で気持ちいい時間を過ごそうね」
耳元で琴乃が甘い声で囁く。
理性がとびそうに――て、なるわけがない!
なぜなら俺たちはアンティーク調の雰囲気のいいカフ ェにいるからだ。
「つーか、琴乃は慣れてるみたいだけど、こういうところはよく来るのか?」
緊張してカチカチに強張った俺の肩から琴乃は手を離すと、 テーブルをはさんでむかいの席に座った。
「うん、実はクラスメイトが最近ここでバイトを始め たから、たまに来てるんだよ」
「へぇ、そうなんだ。落ち着いた雰囲気だな」
「でしょー!」
「いや、お前を褒めてるわけじゃないから」
木目をいかしたナチュラルな椅子やテーブルがセンスよく配置されている。
こういうのを中世ヨーロッパ風っていうのかな。
これでアンゴラウサギを頭にのっけているウエイトレスがいれば、完全に心がぴょんぴょんするな。
「ご注文はお決まりで――あれ! ことのん?!」
こ、ことのん?
なにその面白ワード!
金髪の派手な外見のウエイトレスの視線の先には琴乃がいた。
この女の子が琴乃の、いやことのんの言ってたクラ スメイトか?
「花菜ちゃん、来ちゃったぁ」
彼氏の家に急に押し掛けるめんどくさい女のようなことを言う琴乃。
「もう、来るなら連絡してって言ったよねー」
金髪のウエイトレスさんは、俺の前に水の入ったグラスをそっと置く。
「そうだっけぇ?」
「元気よく、りょーかいって言ってたと思うんだけど!」
ドンっと力強く琴乃の前にグラスを置く女の子。
「花奈ちゃん、あいかわらず制服似合ってるね」
「それいま関係ないし!」
ウエイトレスさんは頬を赤く染めて否定していたが、琴乃の言うとおり似合っていた。
白いシャツの上に水色のベストをはおり胸元には大きめの青いリボン、そして黒いロングスカート。
店の雰囲気や髪の色から、なんだか女の子がシャ□ちゃんに見えてきた。
お! 伏せ字にしたのになぜだか読める!
まあ、実際のシャ
俺がぼんやりとくだらないことを考えているあいだも、琴乃と女の子は楽しそうにおしゃべりをしていた。
二人の掛け合いを眺めていると、仲の良さがうかがい知れる。
俺の知らない女子ということは、高校に入学してからの友達なんだろう。
「あれ? もしかして」
そういうと花奈ちゃんと呼ばれている女の子は琴乃に耳打ちをする。
それに反応してか、琴乃はこくこくと首をふる。
「へぇー、そうなんだー」
なんだか興味深そうに俺をじろじろと見てくる女の子。
「いい人そうだね」
「へへ」とあいまいに笑いながら頭を掻く琴乃。
「あ、京ちゃん。えーと、こちらがわたしのクラスメイトの花奈ちゃん」
金髪の女の子に手のひらをむける。
「あ、ども」
こういう一方通行な自己紹介って苦手なんだよな。
おそらく彼女は俺のことを琴乃から聞いてるわけで。
だけど俺はこの子のことをなに一つ知らない。
「ことのんから、いろいろ聞いてますよ」
人懐っこそうな笑顔を向ける。
つーか、そのいろいろってのがなんなのかが知りたい。
なんか口元がにやにやしてる気がするし。
「お似合いだよね」
「やめてよ、花奈ちゃん」
琴乃が遠慮するかのように俺にちらりと視線を送ってくる。
どういうことだよ。俺とお似合いだと思われるのが嫌だというのか?
んなもん、こっちから願い下げだわ!
「で、注文はどうするの? ことのんはお気に入りの抹茶ミルクティー?」
「うん! ほんとおいしいよね。京ちゃんはどうする?」
「え? あ、俺も」
「かしこまりまし――あ! ことのん、抹茶ミルクティーもいいけどさ、せっかく幼なじみ君と来てるんだから、抹茶ミルクのアイスにしなよ」
「え? そんなのあったっけ?」
「いいからさ!」
「う、うん。京ちゃんもそれでいい?」
「別に俺はなんでもいいけど」
それより幼なじみ君って、俺のことか?
たくっ、琴乃はこの女の子に俺のどんな話をしてるのやら……
変なことを言われてなきゃいいんだけど……
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