「ガールズトークはファミレスで 2」 ②

「でもね、花奈ちゃん。わたしの伝え方にも問題があったんだよ」


「……問題?」


「うん。京ちゃんの目の前でまことちゃんと内緒話をしててね。まことちゃんがわたしに京ちゃんのことが好きなのって聞いてきたからさ、京ちゃんに聞こえるようにわざと大きな声で言っただけなの」


 自分でも呆れるくらいに、ずるいことしたなって思う。


 ダメだな、わたし。


 まことちゃんに誘導されて告白したようなもんだし。


 それでも、京ちゃんに気づいてもらいたかったけど……


「そんなのぜんぜん問題なんかじゃないよ! 女の子なんだから、正面きっての告白なんてハードル高すぎだし! ことのんはチャンスを見逃さずに行動しただけだよ!」


 わたしの目をしっかりと見つめてくれる。本気で言ってくれているんだと思えて嬉しくなる。


「ことのんは頑張ったんだからさ、そんなに落ち込むなし!」


 花奈ちゃんはわたしの頭を優しくなでてくれた。


 ほんと花奈ちゃんの手は温かくて安心する。


「花奈ちゃん、わたしね、もっと京ちゃんにドキドキしてもらえるように頑張るからね!」


「うっし! やっぱことのんは笑ってなきゃ、らしくないよね。うちはいつまでもことのんのことを応援してるからな!」


「花奈ちゃん、ありがとう」


 いい友達をもって幸せだよ!


「にしても、幼なじみ君はほんとなに考えてんだろうね」


 花奈ちゃんは金色に染めたゆるふわな髪をかき上げてため息をつく。


「いいの! 京ちゃんは……」


 ……京ちゃんは……わたしの好きを恋愛感情からくるものだとだけなんだよね……小学四年生のときに交わした約束のせいで……


「ことのん……?」


 あ! やだ! 花奈ちゃんにまた心配かけちゃう!


 花奈ちゃんが言ってくれたように、わたしは笑ってなきゃ、らしくない!


「へへ、京ちゃんは、寝顔がかわいいんだよ」


「……なんで、のろけんだ、いま?」


 京ちゃんを膝枕で介抱した時のことが頭をよぎった。


 私の太ももに頭をのせて子供みたいな顔で寝てた京ちゃん。


 ……でも、あのあとわたしも寝ちゃったからな……


 寝言で変なことを言った気がしたからごまかしたけど。うまくできてたのかな?


 それよりもよだれ垂らしてなかったのかが気になるよぉ……




「あ、そうだ。忘れないうちに返しておくね」


 花奈ちゃんのお食事が終わったのを見計らって、わたしは一冊の本を渡す。


「どう? 面白かった?」


「うーん、途中までは楽しく読めたんだけど、最後がねぇ。ハーレムエンドはちょっとね」


「それな。うちも苦手だわ。うちの兄貴とかは好きみたいだけど。でもさ、途中まではマジ神!」


「わかるよー! 主人公がどっちを選ぶんだろってドキドキしながら読んだよぉ」


「まぁ、現実にこんな主人公がいたらクソだけどな。特にこの、二人のヒロインからデートに誘われてるのに決められないところとか」


 ……なんか、似たようなことがわたしの身に起こっていたような……


 で、でも、京ちゃんはクソなんかじゃないんだから!


 だけど……


「そうだよねー。優柔不断なのはダメだと思うよぉ」


 そうだよ! はっきりしないのは男らしくないんだからね!


「たしかにー。でも人気あるみたいだから、続編とアニメ化が決定したみたいだよ」


「へぇ、そうなんだ。深夜アニメかなぁ?」


 週末だったら京ちゃんと夜更かししながら見れるのにな。


「たぶんな。つーか、ほんとことのんのうちは自由でうらやましいわ」


「そうなのかな」


「うちの家だと親がうるさくてさ、リアルタイムで深夜アニメなんて見せてもらえないよ」


「そういう意味では恵まれてるのかなぁ。パパとは仕事が忙しくてほとんどいないし」


「幼なじみ君の両親もだろ?」


「うん、京ちゃんのお父さんとお母さんもそうだよ」


「あーうらやましい!」


「花奈ちゃんが思うほどいいもんじゃないんだけどなぁ。わたしはもっとお継母さんと仲良くしたいから家にいてくれたらなって」


「……そっか、ことのんちって……なんか変な話題ふっちゃたな……ごめん」


 申し訳なさそうに眉を下げる花奈ちゃん。


「わ! 花奈ちゃん! 謝らないでよ! なんかみんな気にかけてくれるけど、わたしにとっては普通のことだから、なんにも気にすることなんてないんだよ!」


「そ、そうなのか」


「そうだよ! が亡くなってからそうとう時間が経つし! それに花奈ちゃんのそんな顔見るのわたしヤだよぉ……」


「ことのんがそう言ってくれるなら。よし、じゃあうちはもう気にしない」


「うん」とわたしは力強く頷いた。


「ことのんのママか……優しい人だったんだろうな。じゃなきゃ、ことのんがこんないい子に育つわけないしさ」


「いい子なんかじゃないよぉ。でも、ママは優しかったよ。わたしだけじゃなくて京ちゃんのことも大切に育ててくれたんだ」


「幼なじみ君は、ことのんのママにも愛されてたんだな」


「うん! わたしと同じくらいにね!」




 夜も遅くなってきたのでわたしと花奈ちゃんはファミレスをあとにする。


「今日もごちそうになってありがとう、花奈ちゃん」


「いいっていいって。ことのんの話、聞くの楽しいし」


「うぅ、花奈ちゃんはどこまでもいい奴だよぅ。あ、じゃあ、わたしまた花奈ちゃんのバイト先に行くよ」


 おごられっぱなしじゃ悪いからね。


「気つかわなくていいんだってば……それに、制服姿を見られるのは恥ずかしいしさ」


「えーかわいかったよー!」


「そ、そうか。ま、来てくれんだったら、事前に連絡して。心の準備ってものもあるしな」


「うん、りよーかい!」




 帰り道、夜空を見上げると夏の大三角形がうっすらと輝いて見えた。


 たしか、ベガとアルカイダと、あれ? なんか違うような……


 ベガが織姫で、アルカイダが彦星なんだよね。


 ということは、わたしと京ちゃんだ!


 じゃあ、あと一つは誰なんだろう? というかなんて名前だっけ?


 えーと……あ! デブネだ!


 ん? これも違うような気が……ううん、それよりも、デブって!


 それはまずいよぉ! ベガじゃなくてそっちのほうがわたしにぴったりの名前になっちゃう!


 ……やっぱりあと五キロ痩せなきゃだよ。


 織姫の座を誰かにとられちゃうよ……


 決めた! 週末に京ちゃんと水着を買いに行く約束があるから、それまで夕食は我慢しよう。


 京ちゃんにかわいい水着を着てるわたしを見てもらいたいし!


 ……でもそれだと胸が小さくなるかもだし。


 うーん、どうしよう……


 せっかく花奈ちゃんに京ちゃんが好きそうな水着が売ってるお店を教えてもらったのにな。


 と、頭を悩ませていると、とつぜん違和感があった夏の大三角形の名前を思い出した。


 あ! そうだ! デブネじゃなくて、デネブだ!


 そうだよねー、デブなわけないよねー。よかったー、デブじゃなくて安心したよ。


 …………


 すこしでもカロリーを消費するため、家まで走って帰るわたしなのだった。


 どうか胸が小さくなりませんように。

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