「ガールズトークはファミレスで 2」 ①
「ことのん、元気なくね? 幼なじみ君の従妹ちゃんは帰ったんだよね?」
「うん。それはそうなんだけど」
何週間かぶりの花奈ちゃんとのファミレス。
いつもと同じ一番奥のボックス席に対面で座るわたしと花奈ちゃん。
「じゃあ、邪魔者もいなくなって、幼なじみ君を思いっきり独占できんじゃん。またお風呂にでも誘っちゃいなよ!」
花奈ちゃんはパスタを絡めたフォークをわたしにむける。
辛いものも平気で食べちゃう大人の舌をもつ花奈ちゃんはペペロンチーノ。
わたしはお金がないからドリンクバーでメロンソーダを飲む。
「えー、それはもういいよぉ。あのときはまことちゃんが、京ちゃんとお風呂に入るって言って聞かないからだよ」
「そのわりには、幼なじみ君には裸を見せてもいいって言ったんでしょ?」
「間違えたの! ほんとは見られてもいいって言うつもりだったの!」
思い出して顔が熱くなる。
「ぜんぜん意味が変わってくるし。あいかわらずことのんはうけるわー」
「もう! 花菜ちゃん、笑いすぎだよ!」
「でもさ、そのときは言い間違えたのかもしんないけど、見せてもいいとは思ってるんでしょ?」
「……あと五キロ痩せたら」
もう! お腹の肉が憎々しい!
あ!ダジャレになってる! なんかよくわかんない達成感!
「ことのん、じゅうぶん細いじゃん!」
「そんなことないよー。花菜ちゃんは自分が細いからそう言ってくれるだけだよ」
「いやいや、うち細くないから。ことのんのほうが細いし」
「またまたぁ。花菜ちゃんのほうが細いよ」
「そんなことないし――」
というやり取りをあと十回続けたわたしたち。
女子のたしなみだね!
「でもさ、ダイエットするなら気をつけたほうがいいよ」
「気をつけるって?」
「脂肪の多いところから減っていくから、ことのんだと胸がちっちゃくなっちゃうんじゃね?」
「むう。それは困る」
「幼なじみ君にチラ見されなくなっちゃうもんね」
「それもあるけど……」
京ちゃんの中でロリ巨乳にカテゴライズされてるわたしとしては(あまり嬉しくないけど)、胸が小さくなるとただのロリになってしまう。
何日か前に花菜ちゃんがメールで教えてくれた、合法ロリっていうのに。
「どうしたの、ことのん? ため息なんかついて」
「京ちゃんって小学四年生くらいでもいけるのかなって」
「ぶはっ!」
「か、花菜ちゃん! は、鼻からパスタがこんにちはしてるよ!」
「マジ!? てか、めっちゃ痛ぇ! 」
大慌てでナプキンで鼻をかむ花菜ちゃん。
ペペロンチーノは唐辛子たっぷりだから仕方ないよね。
「いや、ことのんさ。幼なじみ君の外見の好みってぜったいにことのんが影響してるから、それぐらいの見た目でもいけるとは思うけどさ」
やっぱりそうなのかな?
顔がなんだかにやけてきちゃう。
「彼の名誉のためにも、公共の場でその質問はやめてあげようよ」
「んー、そうなの? 」
花奈ちゃんが可哀そうな人を見るような目をしているのに気づいて、わたしは慌てて大きくうなづいた。
京ちゃんの好みを聞きたかっただけなのにな。
「それよりさ、小四で思い出したけど、幼なじみ君の従妹ちゃんも小四?」
「……わたしは小四じゃないよ……」
「ごめんごめん」
「もう! まことちゃんは小五だよ」
ぷうっと頬をふくらませて、わたしはささやかな抵抗をする。
「で、かわいいの?」
「うーん、かわいいっていうか綺麗、かな」
「小学生にはあまりつかわない言葉だな。ということはかなり?」
「うん。あ、でも去年までは綺麗っていうよりも年相応にかわいかったんだよ! 身長もわたしのほうが高かったし」
すこしだけど。すこしだけど高かったの。大事だから二回言ったよ。
「てことは抜かされた、と」
ぐぬっ……鋭いな、さすがは花奈ちゃん。
「身長はどれくらいあるの?」
「……なんか、十年後のまことちゃんがわたしたちのところにタイムスリップしてきた感じ」
「わかりづらいよ! まぁ、そうとう身長が伸びたということは理解できるけどさ」
中学生になってからまったく身長が伸びてないけど、わたしの成長期は一体どこに行ったのだろう。
「で、でもね! 胸はわたしのほうが! 胸は……」
……大事なことだから二回言おうとしたけど、恥ずかしくなって失敗したよ……
花奈ちゃんが笑いをこらえてるように見えたから、なおさらだよ。
「幼なじみ君はことのんぐらい大きいほうが好きなんだろ? ならそんなにむきにならなくてもいいじゃん」
「ううん、なんかね京ちゃんはふくらみかけも好きみたいなの」
「マジで!? うーん、幼なじみ君はもしかしておっぱいならなんでもいいタイプなのか」
「そんなタイプ、なんかヤだな……」
どっちかにしてほしいよぉ。
京ちゃんがちっちゃいのが好きなら、がんばってダイエットに励むよ、わたし!
「ま、ゆーてもしょせんは従妹なんだからさ。ことのんのライバルにはならないっしょ」
「ありがと、花奈ちゃん……でも従妹って結婚できるんだよね」
「うっ、そうだけど。ほ、ほら従妹ちゃんはまだ小学生だし、ことのんのライバルになるにはまだ時間もかかるわけでさ」
「まことちゃんの外見は、もうすでにわたしを超えているよ」
大学生くらいに見えちゃうくらいだし。
あ! 花奈ちゃんがわたしにかける言葉がみつからなくて無言になっている。
「ご、ごめん。へんなこと言っちゃって。よーし、もっと牛乳をたくさん飲んで身長を伸ばさないとね! そ、そうだ、ドリンクバーに牛乳あったかな」
きょろきょろとドリンクバーのほうに顔をむけていると、いきなりくいっとわたしの頭にわしづかみにして自分のほうをむかせる花奈ちゃん。
「ことのん。あんま無理すんなよ」
息が詰まった。
そうだった。花奈ちゃんは最初からわたしのことを心配してくれていた。
なのにわたしは大切な友達だからこそ見せたくなくて、無理に明るく振舞っていたのかもしれない。
そんなわたしのことを見ぬいて言葉をかけてくれた花奈ちゃん。
だから、そんな花奈ちゃんにだけはわたしの本音を伝えなければ。
「……まことちゃんのことは別にそんなに気にしてはいないんだ……それよりも……わたしね、京ちゃんに……好きって言っちゃたんだ……」
花奈ちゃんがパスタをフォークですくったポーズのまま動かなくなる。
「……、そ、それで幼なじみ君はなんて?」
「なに言ってんだ、って言われた」
「どちくしょぉぉぉぉおおおおおっぉおおぉ!」
ど、ド畜生? 日本語にこんな表現があったっけ?
「か、花奈ちゃん、ここファミレスだってことを忘れないで」
「落ち着いてなんていられるか! ことのんが勇気を出して告白したのに、そんな返事の仕方はないだろう! ……そんなの……そんなのことのんが……ぐっ」
花奈ちゃんは目頭を押さえてうつむいてしまった。
わたしのためにこんなにも悲しんでくれて。
なんだか胸が熱くなるわたしだった。
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