第29話「水着と下着」編 ③
時計は正午を過ぎていた。
俺の貴重な休日の時間が、琴乃とまことによってどんどん削られていく。
まるで格ゲーでコンボをきめられたときのように。
彼女たちは俺を買い物に連れていくのをまだ諦めてないようで、行こうよーと口々にわめきちらしている。
ああ、うざったい。
なんとかこの状況を打破しなければ、このまま休日が終わってしまう。
そうだ!
「なあ、琴乃とまことは誰かの意見を聞きたいから俺を連れていこうとしてるんだろ?」
「そうだよ」
「だったらさ、お前ら二人で行けばいいんじゃないのか? 女の子同士のほ
うが、俺の意見よりもよっぽど参考になるだろ」
琴乃とまことは顔を見合わせて、二人そろってため息をついた。
は? なんで?
「お兄ちゃんはわかってないなー」
呆れたような顔で首を左右に振るまこと。
「そうだね、まことちゃん」
二人は目を合わせると頷きあった。
まるでお互いに同情しあうかのように。
「なんだよ、お前らのその態度は! これじゃ俺が残念な奴みたいじゃねぇかよ!」
「みたい、じゃなくて京ちゃんは残念そのものだよ」
「国語事典で『残念』って引くとお兄ちゃんのことって書いてあるよ」
「どんだけ残念なんだよ、俺……て、そこまで言うんだったら二人だけで買い物に行けない理由を答えてみろよ!」
どうせ二人して俺をからかってるだけだろ?
ちゃんとした理由なんてあるわけがないんだから、答えられないに決まっている。
「お兄ちゃんに下着を選んでもらうためだよー」
「京ちゃんに水着を選んでもらうからだよ」
二人ほぼ同時に答える。
そうか、ちゃんと理由は存在したんだなと俺は大きくうなずいた。
「て、納得するわけないだろ! そんな理由! なんで俺がお前らの水着だの下着だのを選ばなきゃなんないんだよ!」
「えー、京ちゃんが理由を知りたがってたから教えただけなのにー」
「でもまことがお兄ちゃんの好みの下着を身につけてたほうが嬉しいでしょ!」
「小学生に自分の好みの下着を着せてたら俺相当ヤバイ奴だよ。というか、一週間分の着替えは持ってきてるんだろ? それで充分じゃないか」
「持ってきてる下着って、どれも子供っぽいんだもん!」
「いやまこと、お前小学生だからな」
「あんな可愛くない下着じゃなくて、琴乃さんの下着みたいなセクシーなのがいいの!」
「琴乃みたいなのって……まこと、見たことあるのか?」
セクシーな下着だと! 琴乃はそういうのを身に付けているのか?
「うん。お兄ちゃんちに来てから琴乃さんと毎日お風呂にはいってるからね。なんでかっていうとねー、お兄ちゃんが一緒に入ってくれないからだよー」
まことが元気よくジト目で俺を見つめる……器用なことをするものだ。
「そ、その話はもういいから!」
ただでさえ、いまごたごたしてるのに蒸し返されるのは勘弁してほしい。
でも琴乃がセクシーな下着を身につけているだと!
も、もしかしていまも?
いつも色気のないスウェットばかり着ているものだとばかり思っていたが、実はその下にそんなものが隠されていたというのか!
「どうかしたの、京ちゃん? わたしのことをジロジロ見て」
「い、いや見てないし!」
「見てはいないけど、わたしの下着姿は想像してるってことだよね」
「きめつけてんじゃねえよ!」
くそ! 勝手に心の中をよんでんじゃねぇよ!
まぁ、断りをいれられてから、よまれても困るけどな。
と、そんなしょうもないことを考えている場合じゃなかった。
いっこうに終わる気配がみえないこのやりとり。
俺が二人の買い物につきあうまで続く予感がしてならない。
だけど俺もこの不毛なやりとりを一日中続けるつもりはもちろんない。
そんな休日の過ごし方は嫌すぎる。
なら、さっさとこいつらの買い物に付き合って、そのあと家に帰ったら思う存分ゲームをやる!
だが女の買い物は時間が長いうえに、二人の目的の店が違いすぎる。
これだと家に帰ってきてもゲームをする時間は確保できそうにない。
ならば俺のとる道は一つ!
「よし、わかった! 買い物につきあってやるよ!」
「「ほんとに?!」」
息ぴったりだな、お前ら!
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