第27話「水着と下着」編 ①
「おにいちゃん、早く下着買いに行こうよぉ」
「ちょ、待てまこと!」
まことが俺の右腕を強く引っ張ってくる。
「ダメだよ、まことちゃん。京ちゃんはわたしと水着を買いに行くんだから」
「いや、お前もなに言ってんだよ!」
琴乃は左腕をぐいぐいと引っ張る。
このままだと体が真っ二つに引き裂かれそうだ。
「とりあえず落ち着け! そもそも俺はそんな約束をした覚えは一切ないぞ!」
腕をぶんぶん振って二人をふりほどく。
「ひどーい! 昨日スマホにメッセージ送ったのに」
スマホの画面を俺に見せつけてくる琴乃。
画面に表示されているメッセージを読んでみると、
『京ちゃん、明日予定がないなら、水着を買うのにつきあってくれない?』
とあった。
「いや、たしかに俺に送ってるけど、行くとは返事してないだろ」
「最後までちゃんと読んで!」
琴乃は画面をスクロールする。
『もしOKなら返事はしなくてもいいからね』
「ほらね! このあと返事がなかったから今日はわたしにつきあってくれるんでしょ!」
「ほらね、じゃねぇよ! メッセージがきてるのに気づかなかったから返信しなかっ
ただけだし! ていうかその誘いかたズルくない?」
「とにかく約束は約束なんだから、守ってよ」
「わかったよ。琴乃の買い物につきあえばいいんだろ」
今日は一日中ゲーム三昧の予定だったのに……くそ!
仕方なく身支度を整えようと部屋着を脱ごうとすると。
「お兄ちゃんダメ!」
まことが俺の着替えを阻止してくる。
「まこと、わかってくれ。お兄ちゃんも辛いんだ。せっかくの日曜がこんな形で無
駄になるなんて」
「そんな風に思ってるんだ。京ちゃんひどい」
と言いつつも琴乃はなぜかうきうきしているように見えた。
なんだこいつ、琴乃ってマゾだったのか?
「違うよぉ! ダメって言ったのは、まこともお兄ちゃんと約束したからなんだも
ん!」
「ん? してないぞ? まこと、嘘はよくないな」
「ほんとだって! 昨日の夜、お兄ちゃんに言ったら、うんって返事してくれたよ!」
うるうると目を潤ませるまこと。
大人びた風貌とは裏腹に表情は年相応に子供っぽい。
そんなまことを見ているとなんだか胸が痛くなる。
「すまん、まことのことを信じてあげたいけど、まったく覚えてないんだ」
「ぐすっ、まこと……ほんとに言ったもん」
ますます表情がくもり、声もかなり上ずっている。
やばい、泣かれるのは困る!
「わかったわかった! 覚えてないお兄ちゃんが悪いんだ。謝るから!」
まことに手をあわせる俺。
小学生相手になにをやっているのだろう? という疑問が頭に沸いたが、ことを穏便にすませたい俺は無心で謝ることにする。
「うん。お兄ちゃんがまことのこと、信じてくれたんならもういいよ」
目じりにたまった涙を指ですくうまこと。
なんとか泣くのを阻止できたので、俺は安堵のため息つく。
そしてまことが落ち着いてきたのを見計らって、気になることを聞いてみることにした。
「まことのことは信じるけど、一緒に買い物に行くっていつ言ったんだんだ?」
「もう、お兄ちゃんはほんと忘れんぼさんだなぁ。まことね、お兄ちゃんが寝てるときにちゃんと言ったんだよ」
「ごめんごめん。そっか、寝てるときにね――て、覚えてるわけないだろ!」
俺が突然声を荒げたのに驚いたのか、結局まことは泣き出したのだった。
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