第19話 「一緒にお風呂にはいろうよ」編 ③
「え? 関係ある?……いや俺も言葉が悪かったのは謝るけどさ。琴乃のことを他人みたいな言い方してさ。でも、俺とまことの問題だから、やっぱり関係あるってのはおかしくないか?」
「おかしくないもん!」
頑なに自分の意見を曲げない琴乃。
俺とまことが一緒に風呂に入るか入らないかということに、琴乃がどう関係するのかさっぱり理解できない。
「じゃあ、そこまで言うのなら、どういうことか教えてくれよ」
「京ちゃんとお風呂に一緒に入りたいのは、まことちゃんだけじゃないってことだよ!」
「へ?」
「わたしも一緒に京ちゃんとお風呂にはいりたいの!」
「……はい?」
「なのに京ちゃんとまことちゃんだけが一緒にお風呂に入るみたいな話になってて……そんなのひどいよ!」
目尻にたまった涙を指でそっとぬぐいとる琴乃。
と、そんな仕草をのんびりと眺めている場合ではない! 一大事だ!
どうしよう、琴乃がなにを言ってるのか、本当に、 マジで、真剣と書いてマジで、進研と書いてゼミで、 いやいや、進研と書いてゼミとは読まないわけだけど 。
幼なじみの考えていることが、ぜんぜんまったくこれっぽちもわからない! 理解不能だ!
俺と――風呂に――はいりたい――だとぉぉぉぉぉぉぉ ぉぉっぉぉおぉぉ!
は? 誰が? 琴乃が?
なんで? そんなの知らねぇよ!
脳が混乱している。
頭からぷすぷすという音とともに煙が出そうだ。
最後には爆発して口から黒い煙を吐くことだろう。
俺はすっと立ち上がり、まことの肩にそっと手を置く。
「……まこと、しばらく琴乃の相手をしていてくれないか。俺は少しベッドで横になってくるから」
「ダメだよ! お兄ちゃんはここにいて! お兄ちゃんのことは、まことが守るから!」
「は? まこともなにを言ってるんだ? 守るって一体なにからだよ?」
「決まってるよ! 高校生にもなって、男子と一緒にお風呂に入ろうとしている変態女子高生からだよ!」
琴乃をビシッと指差すまこと。
「まことちゃん、ひどいよー。わたし、変態じゃないよ」
琴乃は泣きそうな顔で、まことに抗議の視線を送る。
そうか! まことは、琴乃が俺とお風呂に入るのをやめるように説得してしてくれるということか!
少々頼りない気はするが、女の子同士のほうが話は早いだろう。
まかせたぞ、まこと!
こうして二人の女子による戦いの火蓋が切られたのだった。
やはり俺はまだ動揺しているようだ。
心のなかで、意味のわからないナレーションをいれてしまうとは。
「琴乃さん! 男の人と一緒にお風呂に入れるのは小学生までだからね!」
攻撃の口火を切ったのはまことだった。
よくわからない切り口から話をすすめようとしている。
さすがに小学生でも高学年くらいになるとヤバいんじゃないのかな? と思ったが、説得をまかせておいて口をはさむのも野暮なので無言で見守る。
「まことちゃん、たしかにそれも一理あるよ」
それに対して琴乃がまさかの肯定!
て、一理ねえよ! なにを根拠にそんなことを胸はって言えるんだよ!
ソースをだせ! ソースを!
心のなかで野次をとばす。
……俺、なにやってんだろ。
「まことちゃんは知らないかもしれないけど、わたしと京ちゃんは小学生までは一緒にお風呂に入ってたからね」
うわっ、証拠あったわ!
「……え? そ、そうなの? お兄ちゃん?」
真実を確認するかのように、俺に視線をむけるまこと。
逸らす俺。
そんな恥ずかしい過去を俺の口から語らせないでくれ。
「むう、ほんとなんだ……で、でも、そんな昔のことは別にいいもん。ていうか琴乃さんは、一緒にお風呂に入るのは小学生までってことを認めたよね。だったら琴乃さんは小学生じゃないんだから、お兄ちゃんとはもう一緒に入れないよ?」
「そうかもね。でもさ、まことちゃんは、小学生にもかかわらず京ちゃんに一緒にお風呂を入るのを拒否されてたよ!」
「…… そ、それは」
「つまり京ちゃんはわたしとだったから、小六まで一緒にお風呂に入ってたってことだよね。中学生になってからは入らなくなったけど……あれ、なんで入らなくなったんだろ……?」
記憶をたどるかのように、天井に視線をさまよわせる琴乃。
考えるまでもないだろ……
「あ! そっか! 理由なんてないんだ! 単にお風呂に入るタイミングがあわなかっただけだよ! それなら、高校生になったわたしと入っても、それは自然なこと! そういうことだよね? 京ちゃん!」
「違えよ!」
「えーーーーー? 違うの? じゃ、じゃあ、なんで?」
「いや、考えればわかんだろ、そんなこと」
「わかんないよ?」
「即答すんな! せめてすこしは考えるふりしてから答えろよ!」
「わかんないものはわかんないよ! 理由があるんだったら、京ちゃんが教えてよ!」
「……だから……中学生になってお互いに裸になるのが……恥ずかし……かったんだよ」
なんでこんなあたりまえのことを、俺は照れながら言わされているのだろう。
「それはないでしょ!」
「あるよ!」
「だってわたしは恥ずかしくなかったもん。他の男子だったら嫌だったけど、京ちゃんになら見られても、ね」
「そーだよー! まこともお兄ちゃんにだったら、ぜんぜん平気だよ!」
どうしたというんだ。俺は異空間に迷い込んでしまったのか。
思考がまったく理解できない人間が二人もいるのだが。この狭い空間に……
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