第20話 「一緒にお風呂にはいろうよ」編 ④
言葉の通じぬ異星人の一人(地球年齢十一歳)は話を続ける。
「もしかして、お兄ちゃんってまことに自分の裸を見られるのが 恥ずかしいから、一緒に入ってくれないってこと?」
「そ、それもある」
「それも? って、ほかにも理由があるの?」
「……まことの裸を見るのも……」
「えー、なにそれー。へんなのー。一年前までは一緒に入ってたのに。 去年のまことだと恥ずかしくはなかったってこと?」
「そ、それはだな……」
この一年の間に著しく成長したから、エッチな目で見てしまいそうになるんだ、とはさすがに言えない。
どう返事をすればいいのかと思い悩んでいると、突き刺さるような視線を感じた。
顔をあげると、琴乃がジト目でにらんでいた。
「な、なんだよ」
「京ちゃんって一年前まで、まことちゃんとお風呂に入ってたんだね」
「わ、悪いかよ。去年のまことを琴乃も覚えてるだろ ? いまよりも背が低かったし、それに従妹なんだから 、なんの問題もないだろ?」
「悪いなんて一言も言ってないよ。去年のまことちゃんのことは覚えてるよ。まだ小さかったもんね」
「だろ? あれくらいなら一緒にはいってもいいよな? 」
「そうだね、ぜんぜん問題ないと思うよ。ところで京ちゃん、 わたしの身長って去年のまことちゃんとほとんど変わらないの知ってた?」
「そういえばそうだったような。それがなんなんだよ?」
「つまり体の大きさで一緒に入るかどうかを決めるんだったら、わたしは問題ないんじゃないかな、ってことだよ」
「ああ、なるほど、琴乃は小四くらいの体格だし、まったく問題な――ってそんなわけあるかぁぁ!」
「……小四って」
「いや、自分で言ったんだからな。去年のまことと同じだって」
大丈夫。胸だけはスーパー高校生級だから、と心の中でそっと励ましてやった。
時計の日付がまもなく変わろうとしていた。
「で、けっきょくお兄ちゃんは、まことと琴乃さんのどっちとお風呂に入るの?」
「だからなんでその二択しかねえんだよ! 俺は一人で入るから!」
一体いつまでこのやりとりが続くのだろう。
今日はもうこのまま寝たいんだけど。
ん? そうか! その手があった!
「琴乃、まこと、聞いてくれ! 俺、今日は風呂に入らないことにしたから!」
これで、こいつらはもうなにも言ってはこれまい。
一緒に入るか入らないかという選択肢は、風呂に入るという前提のもとになりたっているからな。
ざまぁ!
「えー、お兄ちゃん、そんなの不潔だよぉ」
「いいんだ。明日の朝に入るから」
「ふーん。じゃあ明日の朝はどっちと一緒に入るの?」
の、逃れられない……
これではいつまでたっても解決しないじゃないか!
「ねえ、京ちゃん。もう時間も遅いし、いい加減に決めてくれないかな。わたし、眠くなってきたんだけど」
「まこともいつもなら、もうとっくにベッドに入ってる時間だよー。早くしてよー、お兄ちゃん」
「お前らな……」
わけのわからん二択をふっかけてきて、どっちかを早く決めないのは俺のせいだと!
あげく眠いからっさとしろだと!
どんだけわがままなんだよ!
あまりにも理不尽な要求に俺の怒りは一瞬で頂点に達する。
「あー、わかったよ! そこまで言うのなら風呂くらい一緒に入ってやるよ! だけどな、まことと琴乃のどちらかを選ぶなんてことはしない!」
こうなりゃ、自棄だ!
突然大声をあげる俺を、口をぽかんと開けて見つめている二人に、指を突き付けてこう言い放ってやった。
「二人まとめて一緒に入ってやるから、さっさと準備しろ!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます