「ガールズトークはファミレスで」 ②
「ま、ことのんが自分の容姿にコンプレックスをもっていてもさ、幼なじみ
ついこの間見た、京ちゃんのパソコンにはいっていた『ロリ巨乳』ファイルが頭に浮かんだ。
「じゃなきゃ、ことのんに似てる女の子の画像ばっかり保存しないわけだし」
「ていうかいま思ったんだけど、わたしって京ちゃんの中で『ロリ巨乳』にカテゴライズされてるのかな……だったらなんか、ビミョーだな。胸はあると思うけど、わたしロリじゃないし」
「いやいや、ことのんはじゅうぶんに合法ロリでしょ」
「合法ロリ?」
なんだろう。合法だから悪いことではなさそうだけど。
「あー、知らないのか。また今度教えてあげるよ。ファミレスで女子高生が話す内容じゃないからね」
「そうなんだ。ロリにもいろんな種類があるんだね」
奥が深いんだなー、ロリって。
京ちゃんって合法ロリも好きなのかな?
今度聞いてみよ!
「あ、そうだ。花菜ちゃんにお礼を言うの忘れてたよ」
「ん? うちがなんかしたっけ?」
「ほら、パソコンをたくさん教えてくれたことだよ。ありがとう、花菜ちゃん」
「いいよ、そんなことくらいで礼なんて。たいしたこと教えてないし」
わたしから視線をそらして頬をかく花菜ちゃん。
照れてるのかな? かわいいなー。
「でもすごいな、ことのんは」
突然そんなことを言われてきょとんとするわたし。
「いやだってさ、幼なじみ君がファイルを削除したと見せかけていたのを、見破ったんでしょ」
そういえばそうだったな。
あのときわたしは京ちゃんの目の前で、『ロリ巨乳』ファイルをゴミ箱にドロップした。
けど、京ちゃんの慌てかたがいつもと違うと気づいたわたしは、まだファイルは削除されていないのかもしれないと思った。
だから、パソコンに詳しいお兄さんがいる花菜ちゃんに相談して、いろいろと教えてもらったんだ。
「すごくなんてないから。付き合いが長いからわかるだけだよ」
「そーいや、前にことのんが兄妹みたいって言ってたから、そういうもんなのかな」
花菜ちゃんに指摘されて、なぜだか胸が苦しくなった。
京ちゃんとは兄妹みたいだと自分で思うよりも、誰かの口から言われるほうが、その言葉のもつ意味を客観的に受け止めてしまうみたいだ。
いまは考えたくない。考えないでおこう。
「でもさ、ファイルを削除するなんて、ことのんも思い切ったことをしたよね」
「ほんとは削除するつもりはなかったんだよ。わたしの画像ファイルをその隣に並べるだけにしようと思ってたの。でも、京ちゃんがわたしに外見が似ている女の子を見てにやにやしてるのを想像したら」
そこまで言うとわたしは、胸の奥のほうで、なにか黒いもやのようなものが立ち込めてくるのを感じた。
それはあのときに感じたのと同じものだった。
思わずブレザーの胸のあたりをぎゅっと握りしめた。
「……ことのん……」
心配そうに見つめてくる花菜ちゃん。
わたしは声を振り絞って言葉を紡ぐ。
「……なんか気がついたら、わたしのファイルだけになってたの……なんでだろう……ね?」
どんなものであれ、京ちゃんが大切にしてるのなら、あんなことはしたくはなかった。
でも、わたしは自分の中にうまれた、醜いなにかに操られてしまった。
そう思うとなんだか泣きたい気持ちになった。
「だ、大丈夫だって、ことのん。女の子なら誰でもそういう気持ちになるし。だから、そんな顔するなし」
「……花菜ちゃん」
優しいな花菜ちゃんは。こんなわたしを励まそうとしてくれて。
だったらわたしも元気を出さなくちゃ!
「これからも、うちでよければなんでも相談にのるからさ」
「なんでも……ほんとに?」
「もちろん、なんでもいいよ。なんだ? いま気になってることがなんかあるのか?」
「……うん……あのね……自分の画像をいれたファイルにね、花菜ちゃんのアドバイスどうり、我慢しなくていいんだよって書いたけど、これって京ちゃんはなにか我慢してるってことだよね? 京ちゃんはなにを我慢してるのかな?」
「……ま、それは、その、ことのんにも時期にわかる日がくると思うよ」
「えー、知りたい知りたい! 京ちゃんがなにかを我慢してるなんてかわいそうだよー! なんでも聞いてって言ったでしょー!」
「い、いや、うちは、なんでも相談にのるって言ったんだけどな。相談なのかそれは? そ、それに、これもファミレスで女子高生が話す内容じゃないからね」
「もー、花菜ちゃんのうそつき!」
「うそはついてないはずだけど…… ま、でもさ、ことのんがこんなに頑張ってるんだから、幼なじみ君にもいつかきっと想いが伝わるよ 」
「うん! ありがとう! わたし、もっと京ちゃんをドキドキさせて、いつかは」
幼なじみじゃなくて……
でも、本当ははわかってるんだ。
どんなに京ちゃんをドキドキさせても、わたしの願いは叶わないということに。
だって、京ちゃんはあの日の約束をいまも忠実に守ってくれてるのを知っているから……
「あー、けっこう遅い時間になっちゃたね。花菜ちゃん、門限大丈夫?」
「あ、ちょいヤバめかも。行こっか、ことのん」
席から立ち上がり伝票をとろうとしたら、花菜ちゃんに手をパシッと軽く叩かれる。
「今日はうちがおごってあげるよ」
「えー、悪いよそんなの」
「いいっていいって。先月からはじめたバイトの給料が入ったばっかだし」
「バイトってカフェの?」
「そう。楽しいよ! ことのんもやる?」
「うーん、花菜ちゃんと一緒だったら楽しそうだけど、わたしはやめとくよ。京ちゃんのご飯つくる時間がなくなっちゃうもん」
「そっか、そうだよね。てか、ほんとことのんは家庭的だよね。マジ幼なじみ君はしあわせ者だよ」
そう言って花菜ちゃんは笑いながら、わたしの頭をなでた。
花菜ちゃんの手は温かくて、安心感をあたえてくれる。
だからわたしは猫のように目を細めて、たくさんなでてもらうのだった。
花菜ちゃんとファミレスの前で別れると、わたしは小走りで家路にむかった。
なんだかすごく京ちゃんに会いたくなっているのに気がついたから。
だけど、わたしはこのあと、信じられない光景を目にするのだった……
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