「ガールズトークはファミレスで」 ①

「ことのん、最近どうなの幼なじみくんとは?」


「どうって。べつに花菜ちゃんが期待するようなことは、なんにも起こってないよ」


 ファミレスの一番奥のテーブルで、わたしはパフェのクリームをスプーンでつつきながら答える。


「えー、うちがこんなに協力してあげてるのに進展ないのー?」


 ボックス席の対面に座る花菜ちゃんは頬を膨らませる。


 高校に入学してから知り合ったクラスメイトだ。


 わたしとは比べものにならないほど大人っぽい。


 メイクも上手だし、長めのネイルチップもおしゃれだし、金色に染めたセミロングの髪をゆるふわにアレンジしてるし。


 うーん、これだと大人っぽいというかギャルみたいだ。


 表現力が乏しいな、わたし……


「あ、花菜ちゃんが教えてくれた、思春期の男子が好きなものは参考にしてるよ」


「あんなことでいいのならいくらでも教えるよ。ソースはうちの兄貴と弟だけどね」


 照れくさそうに舌をペロッとだす。


 花菜ちゃんとはたまにこうして、学校ではあまりできない話をするためにファミレスで女子会を開いている。


 二人でも女子会っていうのかな?


「ありがとー。でも男子が好きなものってみんな同じなんだね。京ちゃんも花菜ちゃんの兄弟と好みは変わらないみたいだったし」


「でもまさか、ことのんが幼なじみ君に、裸エプロンが好きかどうかを聞くとは思わなかったけどね」


 花菜ちゃんは大口を開けて豪快に笑う。


「えー、だって京ちゃんをもっとドキドキさせたほうがいいって、花菜ちゃんが言うからだよー」


 裸エプロンが好きなのかを、京ちゃんに尋ねたときのことを思い出してしまい、恥ずかしくなって頬を両手でおさえる。


「ほんと、ことのんは面白いよねー。あ、ドキドキって言えばさ、このまえ買うのにつきあったあの下着、えーっとなにパンっていうんだっけ?」


「縞パン?」


「そう、それ! で、そのあとどうなったの?」


 グッと身を乗り出してくる花菜ちゃん。


「花菜ちゃんに教えてもらったとおりにはしたけど……」


「うまくいったでしょ!」


 目をキラキラと輝かせてる。


「どうなんだろ。寝不足のふりとかバレてないのかなー。お箸の落とし方もわざとらしかったかもだし」


「大丈夫っしょ。男子なんて鈍感なんだから気づかないって!」


「ほんとにー? でも、わざとパンチラさせるとか、ほんとすごく恥ずかしかったんだよ」


 思い出して顔が熱くなる。


『いままで気にもとめてなかった女子のパンチラを見て、そこから気になる女子になることはある』


 って京ちゃんが言うから勇気をだして実行したんだけどな。


 縞パンも花菜ちゃんに相談して、京ちゃんが喜んでくれそうなかわいいのを選んだし。


 そういえば花菜ちゃんは縞パンのことをずっとストライプ柄のパンツって言ってたけど、あんまり知られてない言葉なのかな。


 京ちゃんと一緒に見る深夜アニメの中では、よくでてくるんだけど。


「で、幼なじみ君の反応は? いまのことのんみたいに真っ赤になってた?」


「もう、からかわないでよ! そうだったかもだけど。恥ずかしくて京ちゃんの顔をじっくり見てる余裕なんてなかったよ」


「初々しくていいねー。ま、ことのんの話を聞いてる限り、幼なじみ君はうぶそうだし、かなりドキドキしてたんじゃないかな」


「だといいんだけどな」


「自信持ちなよー。ことのんは可愛いんだからさー」


「そんなことないよ。背も低いしスタイルもよくないし」


「いやいや、一緒に歩いてると、すれ違う男子がかなりの確率でことのんを見てるからね」


「違うよ、きっとなんか珍しい小動物だと思われてるんだよ」


「どんだけ卑屈なんだよ……もったいないなー。せっかくこんなに可愛く生まれてきたのに」


 花菜ちゃんは飲んでいるアイスコーヒーのストローを、苦そうな顔で噛んでいた。


「そう言ってくれる花菜ちゃんのほうが、わたしの百倍は可愛いよ。たぶん道行く男子は花菜ちゃんを見てるんだと思うんだけど」


「ないないない。もしそうだとしても、外見が派手だから目をひいてるだけだって」


「そうかなー。花菜ちゃんはスタイルもいいのに」


「よくないし。ことのんの胸に比べたら、うちのなんてないも同然だからね」


 そう言って花菜ちゃんは、ブレザーの制服の上から形のよさそうな胸をなでた。


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