第14話 「エッチな画像」編 ④

 だがすぐになにかに気がついたのか、はっと大きく目を見開く。


 そして全身が瞬時に真っ赤に染まっていくのがわかった。


「え? もしかして京ちゃんがさっき言ってた、俺は早くやりたいんだっていうのは、マウス操作のこと?」


「そういえばそんなことを言ってたな。そうだけど、ていうかそれ以外に解釈のしようがないだろ」


「……じゃあ、急に襲いかかってきたのは?」


「襲い!? いや、そんなことしてないし! だいたい俺が琴乃にそんなことをするわけがないだろ!」


「うそ! だって京ちゃん、突然わたしの名前を呼んだかと思ったら、うしろからがばって抱き締めてきて、さらに手まで握ってくるし。それに耳元でずっとはぁはぁって荒い呼吸をしてくるんだよ! それって……エッチな画像を見ていて……わたしと同じ気持――て、な、なんでもないなんでもない!」


 なぜか顔をさらに赤くして、両手をぶんぶんと振る琴乃だった。


 めずらしいな、こいつがこんなにも慌てるなんて。


 てか、最後のほうがよく聞こえなかったんだけど、なんて言ったんだ?


 エッチな画像がどうとかは聞き取れたけど。


「よくわかんないけどさ、俺は琴乃を襲っちゃなんていないからな!」


「もうわかったから、それ以上言わないで!」


 琴乃は顔を隠すように、机に突っ伏す。


 カチカチッ、となにか軽い機械音がした。


 するとパソコンの画面が切り替わり、そこに俺が寝る時間を惜しんでかき集めた天使たちロリ巨乳画像が映し出されていた……


「オ◎△$巨♪×¥が●&%#?!」


 俺は声にならない声をあげる。


 どうやら、琴乃が机に顔を伏せたときに、肘でダブルクリックをしたようだった。


 なんという奇跡……


 そんなことよりも、異変が起こっていることを琴乃に知られたくないので、あわてて口を手でふさいだが、すでに手遅れで……顔をあげた琴乃は画面を見つめていた……


「え? 京ちゃん、もしかしてこれが……?」


「違うんだ違うんだ違うんだ!」


 琴乃に見られないように、モニターの前で必死に手のひらを振りあらがう俺。


 だがパシッと俺の手を払い除けて、琴乃は画面上の天使たちロリ巨乳に熱い視線を注いでいる。


 なんてことだ……誰にも見られないようにと、ファイルの中にファイルを作成し、そのファイルの中にさらにファイルを作成し、そのファイルの中にさらに……と地面に穴を掘って、地中深くに埋めるようにして隠したというのに。


 まさか、こうもあっさりと発見されるとは思ってもみなかったから、ストレートな名前をつけてしまっているし……


 もうダメだ……あのことを琴乃に知られてしまう……い、いや、琴乃が気がつかない可能性だってあるじゃないか!


 望みはまだ捨ててはいけない!


「ふーん、さっきとあまり変わり映えしないね。画像の女の子がみんな幼い顔立ちで、おっぱいが大きいだけで」


 カーソルをゆっくりとスクロールさせて、画像を食い入るように見つめている琴乃。


「そ、そうだろ。さ、もうこのくらいでいいだろ。同じような画像ばかり見てもしょうがないからな」


「うん、そうだね」


 琴乃はカーソルをスクロールさせる手をぴたりととめる。


 よし! このままファイルを閉じてくれれば、すべてがうまくおさまる!


 俺は拳を強く握りしめた。


「あれ? ちょっと待って」


 再び琴乃が画面をスクロールさせはじめた。


 次から次に同じような天使の画像ロリ巨乳があらわれる。


 それを一枚一枚じっと目をこらして、なにかを確認している琴乃。


 やばいやばいやばい!


 心臓が破裂しそうなくらい波打っている。


「こ、琴乃、もうそのくらいで」と言いかけた俺を遮るようにして、琴乃は言葉を発してきた。


「京ちゃん、このファイルの画像が全員、幼い顔立ちで、背が低くて、おっぱいが大きくて、というのはファイル名からわかるんだけど」


「……だ、だけど?」


「……な、なんで、みんな黒髪ロングなのかな……なんかこの画像の女の子たち全員、わたしにそっくりなんだけど」


 くるりと振り返ると、琴乃は長い黒髪の両サイドを持ち上げて口元を隠す。


 目があった瞬間、俺は息が詰まりそうになる。


 琴乃が頬をわずかに赤く染めながら、唇を震わせていたからだ。


 ああ、とうとう気づかれてしまった……

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