第5話 「パンチラ」編 ②
「でもさー、やっぱり男子って女子とぱんつの捉え方が違うんだね」
「そうなのか?」
「だってわたしは男子のぱんつを見てもなんとも思わないし」
「まあそうなんじゃない。あんまり男子のぱんつを見て喜んでる女子って見たことがないしな。でもそれって気になる男子のを見ても同じなのか?」
「気になる男子のぱんつ?」
そう呟くと琴乃はほんの少しの間、目をつぶって考えているそぶりをみせた。
え? 琴乃ってまさか気になる男子がいるのか?
心がなんだかざわつく。
嫉妬? いやそんなわけはない。別に琴乃に好きなやつがいても俺はなにも思わないし。だけどどんなやつなのかを知らないから気になってるだけで。
だいたいそういう男子ができたなら、幼なじみの俺に一番に知らせるべきだろう。いままでお互いになんでも話し合ってきたのに。そんなのあんまりにもみずくさいだろ!
あーもう我慢ならん!
「お、おい、こと」
「うーん、そうだね。破れかけてるなとか、デザインが好みじゃないなとかは思うよ……あと……少しだけドキドキする」
俺が気になる男子のことを問い詰めようとした矢先に、琴乃がなぜかはにかみながらそう言ってきた。
その表情に一瞬心を奪われてしまう。
いままで見たことのない琴乃だったからだ。
これが恋する女子の顔なのか……?
気になる男子のことを聞こうと思っていた俺だったが、そんなことを考えてしまい出ばなをくじかれてしまった。
だがそれよりも、琴乃がとても引っかかることを言っていたのに気がついた。
「なあ、琴乃。いま破れかけてるとかデザインが好みじゃないって言ってたけど、それってチラっとぱんつが見えただけでわかるもんなのか? 」
「ん? あ、そっか、これってパンチラの話だったね。忘れてたよ」
「い、いやそれならそれでいいんだが、パンチラじゃないとすれば、そういうことが確認できるのって、ズボンを脱いでないと無理だよな?」
「うん、もちろんそうだよ。それがどうかしたの、京ちゃん?」
「………………」
な、なんていうことだ……と、ということはつまり……琴乃はその相手がズボンを脱いでぱんつだけしか穿いていないという状況を見ていたことになる。
破れかけているとかデザインがうんぬんとか言っているということは、一回だけではなく少なくとも二回は、だ。
体育会系の部活のマネージャーならそんな状況を目撃することもあるだろう。
しかし琴乃は帰宅部。さらに通っている高校は女子高だ。
学校でということはありえない。
だとすると答えは一つ。
琴乃は……そ、その気になる男子と……ズボンを脱いでする行為……つ、つまり男と女が……は、裸で愛し合う行為を、な、何回もしたということになる……少なくとも二回は……
そっか……俺が気がつかないうちに大人になってたんだな、琴乃……なんか目から熱い汁が……
「え? ど、どうしたの、京ちゃん? なんで泣いてるの?」
「な、泣いてないし! これは心の汗だし! それよりも琴乃、幸せになれよ」
「へ? ごめん、まったく意味がわかんないよ。京ちゃんのぱんつのデザインが好きじゃないって言ったのが悪かったのかな? だったら謝るからさ!」
「お、俺の……ぱんつの話?」
「え? 誰だと思ったの?」
「い、いや別に。ていうか俺、こ、琴乃とそういうことしてないのに、ズボン脱いでってどういうことだよ?」
「そういうことって?」
「な、なんでもない……」
「よくわかんないけど、京ちゃんはいつもズボンを穿かずにお風呂から出てくるから、つい京ちゃんのぱんつをチェックしちゃうんだよね」
「……ああそういうことね」
「もう、そんなに泣くほどぱんつを見られたくないんだったら、今度からはちゃんと服着てから出てきてよ」
「うるさいな! ここは俺んちなんだから自由にさせろよな! て、ていうか、泣いてなんかないし」
スウェットの袖で目をゴシゴシとこすった。
そんな俺の姿を見て、琴乃がなにかを感じ取ったのかにやにやとしている。
「あれ、もしかして京ちゃん、わたしが誰かのぱんつを見たと勘違いしてやきもちやいてる?」
くっ、長年幼なじみをしているだけあって勘が鋭い。
心を読まれているようで、心拍数が上がる。
「そ、そ、そ、そんなんじゃない! 別に琴乃が俺以外の男子とそんなことをしてたって、別になんとも」
「そんなことって? ん? そういえばさっきやたらとズボンを脱ぐっていうことにこだわって――あ!」
琴乃は口に手をあてて笑いをかみ殺している。
そして俺の背中をバンッと強く叩くと、耳元に囁きかけてきた。
「心配ないよ。大切な人のために、それはちゃんととってあるから」
珍しく琴乃がほほを赤く染めていた。
こいつでも照れることってあるんだなって思ったが、それよりも琴乃が言ったそれの意味がよくわからなくて気になってしまう。なんのことなんだ?
でもそんなことよりも、琴乃の前で泣いてしまうとは不覚すぎた。
なんで涙を流したのか、俺にもよくわからないし。
そもそもなにを話してて、こうなったんだ?
そうだ! たしか、気になる男子のぱんつの話をしてたんだっけ。
それで琴乃は俺のぱんつのことを――え? それじゃあ!
「こ、琴乃!」
突然俺が呼びかけたので、琴乃は肩をビクッとさせる。
「な、なに、京ちゃん」
「あのさ、お前の気になる男子のぱんつが俺だとしたら、それって俺のことが気になるってことか?」
琴乃は目を伏せて黙り込んでしまった。
なぜか鼓動が早くなる。
目を伏せている琴乃の頬がかすかに赤らんでいるように見えた。気のせいだと思うけど。
声をかけるタイミングがわからない俺は琴乃から目が離せなくなってしまう。
だがそれもつかの間のことで、すっと顔をあげた琴乃と目があうと、彼女はなにごともなかったかのようにこう言った。
「え? だって気になるぱんつの男子の話でしょ、これ」
「…………て、逆だし! 気になる男子のぱんつの話だよ! ていうか俺、気になるぱんつなんて穿いてねえし!」
「そうだっけ?」と琴乃は大口をあけて楽しそうに笑った。
思わせ振りなことしてんじゃねぇよ!
てっきり俺のことを……って考えてしまう自分が恥ずかしくて、なんだかやりきれなくて拳をギュッと強く握りしめた。
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