第4話 「パンチラ」編 ①

「ねえ、京ちゃん。男子ってパンチラって好きなの?」

「ごふぉ!」


 夕食後リビングでテレビを見ていた俺は、琴乃に突然質問されて、飲んでいたコーラを盛大に吹き出した。


「だ、大丈夫京ちゃん?」


「ああ」と、ティッシュでテーブルを拭いた。


「平気? なんか最近飲んでるものをよく吐き出すけど、体調よくないの?」


 お前のせいだよ!……とは言えない俺はあいまいな笑顔でなんでもない感じを装う。


「そっか、無理しないでね。でさ、さっきの質問だけど、どうなの?」


「ど、どうって。まあ、好きなんじゃない」


「えーでもさ、ぱんつってただの布だよね? なにがいいの?」


 大きな目を丸くする琴乃。心底不思議そうに。


 気心の知れた幼馴染みとはいえ、琴乃が女子であることは間違いのない事実だ。


 そんな異性である琴乃にぱんつの話をしていると考えてしまうと、自然と顔が赤くなっていく。


 それに対し琴乃はあいかわらず恥ずかしがるそぶりもなく、俺にぱんつのどこがいいのとか聞いてくる。


 まったくどういう精神構造してるんだ、こいつは。


 でも俺が答えないと、他の男子に質問するかもしれないしな。


 きっとその男子も俺と同じで困り果てるだろうし。


 仕方ない、誰かに被害がこうむる前に俺が犠牲になってやるか。


 ぱんつの話題なんてめちゃくちゃ恥ずかしいけど……


「いいか、よく聞け琴乃。ぱんつはただの布なんかではないぞ。ぱんつはな、特別な布なんだ。だからこそ世の男子は惹かれるんだ」


「そうかなー。ぱんつってティーシャツとかと同じ素材だよ? 綿だよ? ポリエステルだよ? ぜんぜん特別なんかじゃないと思うんだけどな」


 小首を傾げて釈然としないといった素振りの琴乃。


「いや、その、俺が言う特別な布っていう意味は素材のことではなくてだな。なんていうか、その、どの部分を隠している、いや守っているのかということであって」


「なんか、ますますよくわからないよ。もっとはっきり教えてよ」


 俺が恥を忍んでこんなにも頑張って伝えようとしているのに、ぜんぜん理解してくれない幼なじみにだんだんと腹がたってきた。


 そんな気持ちと照れ隠しもあって俺は絶叫する。


「ああ、わかったよ! 琴乃にもわかるようにはっきりと言ってやるよ! ぱんつがなんで特別かというと、隠してるからだよ、チン――ってやっぱり言えるわけないだろ! 具体的にどこを隠して、なにを守っているかなんてよ! 察しろよ!」


「チン? ……あー!そういうこと!大切な部分を覆っている布だから、特別ってことなんだね! それならそうと早く言ってよ!」


「……さっきからそう言ってるよな、俺……」

 

 あと、チンで察しないでくれ……女子なんだからさ。


「だとしてもまだ男子がパンチラを好きなのは納得できないかなー」


「いやもういいだろ、この話題は」


「ダメだよ。気になることはとことんまで解明しないと」


「探究心が強すぎるだろ! 研究するならもっと世の中のためになるものにしろよ!」


「えー、だって興味あるんだもん。あと少しだけつきあってよ。つきあってくれたら、わたしのぱんつを見せてあげてもいいよ」


「いらねえよ! だいたいパンチラは見せるものではないからな」


「そうなんだ。あ! チラリズムってやつだね。見せるよりも見えたほうがいいってことだ」


「まあ、そういうことだな」


 俺は一体なにをしたり顔で語っているのだろう……


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