第6話 「パンチラ」編 ③
喉が乾いた俺は冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出してきてソファーに座った。
琴乃は上下スウェットの部屋着で床に座布団を敷いて女の子座りしてる。
どうでいもいいけど、パンチラに興味をもってるわりに、色気のない服装してんな。
だからといって露出の高いいろいろと見えてしまいそうな服を着て話しをされても困るけど。
そんなしょうもないことをぼんやりと頭に浮かべていると、琴乃もなにやら思いを巡らせているようだった。
まさか、こいつはまだパンチラのことを考えてるんじゃないんだろうな。
あと少しだけつきあってよ、て琴乃が言ってからけっこう経つんだけどな。
そろそろ風呂に入る時間だし、こいつが考え事をしている間にこっそりと席をはずすことにしよう。
そーっと立ち上がろうとすると、琴乃は天井付近をさ迷わせていた視線を俺に向ける。
やべっ! 見つかった……
「京ちゃんどこ行くの?」
「風呂」とぶっきらぼうに答える俺。
「あと一つだけ聞きたいことがあるから、お願い」
琴乃が両手をあわせてくる。
「もう充分つきあってやっただろ。いい加減に解放してくれ」
「そんなこと言わないでよー。ほんとにこれで終わりだから。ね?」
仔猫が飼い主に餌をねだるときのような甘えた目で見てくる。
父性本能というのだろうか。
その視線をむけられると断れないことを、琴乃は知っている。
「はあ、じゃあほんとにあと一つだけな」
「わーい! ありがと、京ちゃん!」
顔を綻ばして喜ぶ琴乃。
俺、つくづくこいつに甘いよな……
「で、聞きたいことってなんだよ?」
「うん、男子は大切なところを纏ってる布を好きってことはさ、それって男子のパンチラでもいいの? 」
「よくねぇよ! 長考してると思ったら、そんなくだらないこと考えてたのかよ」
「えー、 でもさ、男子ってパンチラだったら誰でもいいってクラスメイトが言ってたよ?」
「誰でもいいってのは女子限定の話だ! 」
「男子はダメ?」
「ダーメ! ときめくのは女子のだけ! それくらい考えればわかんだろ!」
「んー、男子もあの布の向こうは秘密のシークレットゾーンだと思うんだけどな」
「秘密とシークレットって意味同じだし! 秘密の秘密で、どんだけ隠したいんだよ!」
ばかばかしい質問な上に、説明しても納得してくれない琴乃に対してだんだんと苛立ってきた。
そしてその気持ちを押さえきれなくなり、ついに俺は感情を爆発させた。
「よく聞け、琴乃! とにかく男子のではダメだ! 女子限定! いいか女子だぞ! 女性でもいいけど、できれば女子! 母親くらいの年齢の人は女子じゃないからときめかないからな! さらに付け加えるなら、女子なら誰でもいいわけではなくて可愛い女子のだけだ! そのことをしっかりと頭に叩き込んどけ!」
一気にまくしたててたせいで、ぜえぜえと肩で息する俺。
頭の中のもう一人の自分が、勢いでなにを主張してんだと突っ込んできて、俺は急速に冷静さを取り戻していく。
しばらくの間、ぽかーんと口をあけて俺を見つめていた琴乃がポンと手を打った。
「うん、京ちゃんが言ったこと理解したよ。ということはさ、逆に京ちゃんがぱんつを見てときめいた女子は可愛いってこと?」
「は? どういうことだ?」
「京ちゃんは可愛い女子のぱんちらでしかときめかないんでしょ。それなら顔が見えなくて可愛いのかどうかわからない女子のぱんちらを目撃したときに、もしもドキッとしたらその女子は可愛いと認定されるのかってこと」
「よくわかんないな。そんな経験はいままで一度もないし。うーん、でもならないんじゃないかな。ぱんつを見ただけで可愛いなとまでは思わないかな」
「ふむふむ。じゃあ少し話を変えて、いままで気にもとめてなかった女子のパンチラを見て、そこから気になる女子になることは?」
「それはあると思う。俺のクラスメイトにもそういう奴いたし」
「そっか、なるほど。よし、京ちゃん、ちょっと待ってて!」
勢いよく立ち上がる琴乃。
「いや俺、風呂に入りたいんだけど」
「すぐ戻るから!」と早口で言うと急ぎ足でリビングから出て行った。
そのあとすぐに玄関のドアがバンっと勢いよく閉まる音がした。
まったく自由なやつだな。
まあ、琴乃は子供の頃から、思い立ったらすぐに行動する性格だったからな。
ほんと成長しない。性格も身長も。
でも俺はその変わらなさがなんだか嬉しかった。
いまのうちに風呂に入ろうかと思ったけど、仕方ない、戻ってくるまで待っていてやるか。
俺はソファーに深く腰を掛けたのだった。
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