第2話 「裸エプロン」編 ②
俺と琴乃の両親はどちらも共働きでほとんど家におらず、中学に入学してからは二人で食事をする機会が多くなった。
どちらからともなく、いつの頃からか朝食は俺が作り、晩ご飯は琴乃が作るという役割になっていた。
「琴乃、学校の帰りにスーパーで買ってきて欲しいものってなんかあるか?」
そして夕食の買い出しは俺が担当するというのも、気がつけば二人の決め事になっていた。
「まだ冷蔵庫に買い置きの食材があるから、今日はいいかな」
食後のデザートであるヨーグルトをおいしそうにほおばる琴乃。
だが急になにかを思いついたのか、ヨーグルトを口に運んでいるスプーンを止めた。
「そうだ! 京ちゃんがそんなに見たいんだったら、今夜裸エプロンを着てお出迎えしてあげよっか!」
「言ってないし! 見たいなんて言ってないし!」
「えーほんとに? さっき裸のわたしと裸エプロンのわたしじゃ、どっちも選べないくらい好きって言ったよ」
「どういう耳してんだよ、お前は! 好きとは一言も言ってないし! たしかに……選べない……とは言ったけど……」
さっきそんなこと言った俺を殺したくなる。
「そっか、京ちゃんは選べないんだったね。うーん、それだとわたしもどっちがいいのか決めるのに迷っちゃうな」
「いやいやいや、なんでどっちかを実行しようとしてんだよ!」
なぜそんなに脱ぎたがるんだ? まさか俺を喜ばせるため?
さすがにそれはないだろ。おそらくコスプレでもするくらいのノリで言っているに違いない。
「とにかくさ、そんな無理してやるもんじゃないだろ。いつもみたいに制服の上にエプロンを着てろよ」
「そんなんでいいの、京ちゃんは? 無理してない?」
「してねえよ!」
口をとがらせてなにか不満そうな琴乃。
そりゃ見たくないといえば嘘になるけど、でも裸エプロンっていうのは俺の中でそんなコスプレ感覚でするようなものではない。
だって俺にとって裸エプロンは!
「それにさ、裸エプロンっていうのは新婚さんが着るもんだからな!」
そう、新妻が着ることによって本領発揮されるものなのだ。したがって高校生には早すぎる。
「……そうなんだ。じゃあ制服にエプロンで待ってるよ」
「お、おう……」
あれ、伝わらなかったのか?
なんだか急に元気がなくなったように見える琴乃は、食べ終わった食器を抱えてキッチンに向かった。
「でも……そっか……新婚さんならいいんだ」
食器を流しに置くガチャッという音とともに、琴乃がぼそりとなにか呟いた気がした。
「え? いまなんて?」
「なんにも言ってないよ! あ! それより京ちゃん、今日は早く帰ってくるんだよ!」
「なんで? なんかあんのか?」
「うん! 京ちゃんが喜ぶようなこと!」
「は? なんだそれ?」
「それは帰ってからのお楽しみだよ!」
「て、なんだよ、それ」
琴乃が弾むような声をぶつけてくる。
元気がなくなったと感じたのはどうやら俺の気のせいだったようだな。
キッチンの蛇口から水が勢いよく流れだす音が聞こえた。
まるで琴乃の気持ちとシンクロしているかのように。
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