第25話 「おっぱいの大きさ」編 ④
意識を取り戻すと頭の下に柔らかいものを感じた。
枕のようだが、なんだが安心するようなぬくもり。
あまりの気持ちよさに俺は頬擦りをする。
「ひゃう!」
頭の上からかすかに驚いたような声が聞こえた気がした。
誰がいるのかと思って目を開けると、大きな胸が目の前にあった。
え? なに? もしかしてここは天国か?
死後の世界というのも悪くないのかもしれない。
目の前の胸を凝視しながらしみじみ思ったが、よく目をこらしてみると、その胸の上になにかがちらちらと映る。
じーっと見ているとぼんやりとしていたものがはっきりとしてきた。
それは琴乃の顔だった。
どうやら真上から琴乃が俺の顔をのぞきこんでいただけだったようだ……
真実を知ることがこんなにもむなしいとは……
「京ちゃん、気がついた?」
視線があうとにっこりと微笑む琴乃。
「ん? なに? 俺どうかしたのか?」
「あいかわらず覚えてないんだね。鼻血を出して倒れちゃったんだよ」
あいかわらず? そう言われるほど頻繁に倒れた記憶はまったくないのだが。
それよりも体は無事なのか?
うん、特に痛みは感じない。
鼻に触れてみると、ティッシュが詰められていて先の方はわずかに湿っていた。
どうやら倒れてからさほど時間が経っていないみたいだ。
「京ちゃんは小学生のときからぜんぜん変わんないね」
「なんだよ、いきなり。そんなことないだろ、身長も伸びたし、筋肉もそれなりについたぞ」
「外見はね。でもあの頃のまんま」
「なんの話だ? よくわかんないんだけど」
「小学生のとき、ドッジボールをしててよく鼻血を出してたでしょ」
「懐かしいな。あったなそういうこと」
「鼻血を出すと京ちゃんはいつもすぐ倒れちゃうんだよね」
琴乃は俺の髪を優しくなでる。
あいかわず……ってそういうことか。
たしかに小学生の俺は、ボールがぶつかっただけでよく鼻血を出していったけ。
子供の頃の記憶がよみがえってくる。
そうだった。鼻血を出すと意識を失ってしまう俺を、琴乃はいつも介抱してくれた。
目覚めたときから感じている安心感は、この枕ではなくて琴乃が側にいてくれているからなのかもしれない。
「だからわたしはいつもこうしてあげてたんだよね」
「ん? ……」
こうして、ってどういうことだ?
「なんだか、あの頃に戻ったみたいだね」
俺の顔を上からのぞきこんでくる琴乃。
距離が近すぎて思わず顔をそらす。
枕に顔が擦れたとき、「ひゃう」という小動物のような可愛らしい鳴き声を耳にした。
なんかさっきも同じような声を聞いたような?
それにしてもこの枕は気持ちいいな。
人肌くらいに温かいし、硬すぎもせず柔らかすぎず、ほどよくぷにぷにしていて。
でも肌触りはあまりよくないかな。
なんの素材だろ? なんか俺と琴乃が部屋着にしてるスウェットみたいな……
背筋がゾクッとした。
な、なんだ、非常に嫌な予感がする……
近すぎる琴乃との顔の距離……人肌のぬくもり……ぷにぷにした感触って、まさか――――
「これ膝枕じゃねえかよ!」
おそろしい事実に気づいた俺は急いで上体を起こそうとしたが、頭がくらっとしてうまく起き上がれず、結局琴乃の膝に戻ってしまうのだった。
いや、正確に言うと膝ではなくて太ももか。
というか膝枕って頭をのせてるのは太もものはずなのに、なぜ膝なんだ?
……どうでもいいか。
「まだ動かないほうがいいよ」
琴乃が両手で俺の頭を支えて、さっきと同じ位置になおす。
なんともいえない柔らかさが再び後頭部に伝わってくる。
だけど恥ずかしさが上回っていて、神枕だと思っていたときの気持ちよさは最早なかった。
なんということだ。まさか俺が大絶賛していた枕が琴乃の太ももだったとは。
しかも頬擦りまでしてしまったし……
思い返して顔が熱くなる。
たしかに小学生のときに鼻血を出したときは、琴乃に膝枕をしてもらっていたけど。
俺たちはもう高校生なわけだし。
それにこういうのって、こ、恋人同士がするものじゃないのか。
そう意識するとますます恥ずかしくなってくる。
だいたい介抱するんだったら別に膝枕でなくてもいいだろ!
俺をソファに寝かせてもまったく問題ないわけだし!
なんで琴乃はそうしなかったんだよ!
え! ま、まさか俺と恋人気分を味わおうとして……?
て、ないない! そんなことあるわけがない!
あいつは俺のことを異性として意識していないはずだ。
そうでなければ、どれくらいの大きさの胸が好きなのかなんて聞いてこないだろうし。
いま膝枕をしているのは、おおかた俺が鼻血を出したのを見て、過去の記憶が甦ったから、といったところだろう。
ああ、もうさっさとこの状態から抜けだしたいけど、いまだに頭がくらくらして立ち上がれないのがもどかしすぎる! くそっ!
ていうかさっきから琴乃が話しかけてこないんだけど。
あ! もしかしてこいつ――――
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