第11話 「エッチな画像」編 ①
「ねえ、京ちゃん」
「ん?」
勉強机で宿題をしていた俺に琴乃が背中ごしに声をかけてきた。
椅子に腰かけたまま振り返ると、琴乃はまるで自分の部屋のようにベッドの上で寝転んでいた。
あいかわらず俺の部屋でくつろぎすぎてんな、こいつは。
「あれどこに置いてあるんだっけ?」
手に持っているマンガをひらひらと振りながら聞いてくる。
「あれってそのマンガの続きか?」
「違うよー。エッチな本だよー」
「ああそれだったらベッドの下に、って!ちょっと待て!なに聞いてきてんだ!」
まるで数学の教科書ってどこだっけ?みたいにさらりと聞かれたから俺も自然に返答してしまった……
すぐさま突っ込みをいれて、『ベッドの下』発言をなかったことにしたつもりだったが時すでに遅し。
「りょーかい!ベッドの下だね」
琴乃はガバッと起き上がると床に膝をついて、ベッドの下をごそごそと物色し始めた。
「おい、やめろ! ないって! 持ってないってエロ本なんて!」
「えー、ベッドの下に置いてるっていま言ってたよー」
「とにかくやめろ!」
大慌てで椅子から飛び降りた俺は、しつこく家宅捜査を続けている琴乃の腰にタックルをかます。
「ひゃう」と琴乃は可愛らしく悲鳴をあげたが俺はそんなのおかまいなしに、そのまま両腕に力をこめてベッドからなるべく遠いところまで引きずっていった。
小柄な幼なじみは運びやすくて楽だ。
「もう、乱暴しないでよー」
「お前が俺の部屋で勝手に物をあさるからだろ!」
ドアにもたれかかって女の子座りでぺたんと腰をおろし、抗議の視線を俺に送ってくる琴乃。
いや、どう考えてもお前が悪いんだからな!
「いいもん! 今度京ちゃんがいないときにこっそり探しに行くから」
「幼なじみといえども、そんなことしたら通報してやるからな!」
「ぶー! でもさ、クラスメイトが言ってたことが、ほんとなんだってわかったよ」
「ほんとってなにがだよ?」
「男子は一人一冊エッチな本を持ってるってことだよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ。ま、まあ俺は持ってないけどな」
「この期におよんで、まだそういうこと言うんだ。往生際悪いよ、京ちゃん」
「うるせぇよ! つーかよ、じょ、女子って、そ、そういうの見ないのかよ?」
急に頭に浮かんできた疑問を、琴乃にぶつけてはみたものの、なんだか恥ずかしくなってしまう。
それにしても、琴乃ってよく平気で俺にこんな質問できるよな。
俺なんていまの質問をするのでも声が上ずってしまうというのに。
男子と女子じゃ感覚が違うのか?
いや、俺を異性としてみていなくて、いまだに兄弟のように思っているからだろうけどさ。
「女子も持ってる子はいるみたいだよ。わたしは持ってないけどね」
「へ、へえ、女子もそういうの見るんだな。な、内容ってどんなのなんだ? 」
非常に興味がある話題だが、緊張してしまう。
「さあ。読んだことないからよくわかんないよ。それよりもわたしは男子が見るエッチな本の中身のほうが気になるかな」
琴乃はにやりと口の端を吊り上げると、視線を再びベッドの下にむける。
「な、なんだよ。ここにはほんとにそんな本ないぞ」
「さあ、どうだろうね。もしかしたら置いたことすら忘れてるかもしれないから、わたしが調べてあげるよ」
琴乃がスウェットの袖を捲りあげて、ベッドの下を死守する俺のほうへ、ジリジリとにじりよってくる。
見られてひかれるような特殊な性癖の内容ではないと思うから、俺もここまで必死にならなくてもいいのだが。
それに琴乃がこれほど興味をしめしているわけで、それを所持していることで軽蔑されることもないはずだ。
だけど幼なじみに自分の性的嗜好を知られるのは恥ずかしくて耐えられない!
だから俺は考える。いかにこの場を切り抜けるか脳をフル回転させる。
「なーんてね!」
「!?」
琴乃は踵をかえし、一直線に俺の勉強机へとダッシュする。
あいつの狙いはベッドの下ではなかったというのか? じゃあなにが目的で勉強机にむかっているんだ? は! まさか――――
琴乃は机の上に置いている俺のノートパソコンの画面を、ジーっとにらみつけていた。
そしてその手にはマウスが握られている。
「部屋にパソコンのある男子は、この中にエッチなものを保管してるって、クラスメイトが言ってたんだよねー」
く! やはり奴の狙いはエロ画像保存ファイルだったか!
しかし俺はまったく焦ることはない。
さっきのベッドの下を守るときと比べ物にならないくらいに落ち着いている。
なぜなら保存ファイルは親にばれないように、一目見てそれとわからないファイル名にしてあるからだ。
俺だけではなく、多くの男子がしているように。
さすがにあのファイル名だと親も興味をしめして開こうとはしないだろうし。
それは琴乃とて同様!
さあ! 俺のパソコンにはエロ画像ファイルなど存在しなかったと誤認して、さっさと家に帰るがよい!
「へー、京ちゃんってこんなの見て喜んでるんだ」
「え?」
慌ててパソコンの画面をのぞきこむと、そこには俺の大切な
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