第10話 レストラン
俺はレミルタウンにある、雑貨屋リーエンに行った。
「いらっしゃーい」
昨日は魔物のエサを購入したが、今日の目的は作物の種である。
六百ゴールドあれば、そこそこの量の種が買える。
全財産を種に変えるわけにはいかないが、四百五十ゴールドくらい使って、種を買おう。
春に買える種は、カブのほかにカリフラワー、ジャガイモ、イチゴなどの作物がある。
あと、ルファーナという作物の種も売ってある。
ファンタジーファーム5では、こういう現実には存在しないオリジナルの作物がある。
ルファーナは、トマトに似ている作物だ。
色は青いが形はトマトとほぼ一緒である。
とりあえずまずは、カリフラワーと、ジャガイモと、イチゴとルファーナの種を一個ずつ購入する。
作物を育てて収穫すれば、神力球をもらうことができるのだ。
カリフラワーの種が三十ゴールド、ジャガイモの種が四十ゴールド、イチゴの種が百ゴールド、ルファーナの種が八十ゴールド、これで三百五十ゴールドだ。あと百ゴールド分買える。
ここはイチゴだな。
普通作物は一度成長しきったのを収穫したら、完全に消えて、もう一度収穫するには再び種を植えて最初から育てなおす必要がある。
しかし、イチゴは一度収穫しても、もう一度種を埋め直す必要がなく、何度でも繰り返し収穫することができる。
季節が変わって、枯れてしまうまで一つの種で何度でも、収穫が可能なのだ。
なので百ゴールドと一見高そうに見えるが、実際は非常にお得な値段あのである。
俺はイチゴの種を二つ、カリフラワーの種を一つ、ジャガイモの種を一つ、ルファーナの種を一つ購入して、雑貨屋を後にした。
そのあと牧場に戻って、畑を五マス耕した後、種を全て植えた。
そしてジョーロで水をやる。
途中水が切れたので、近くにある溜池に行き、水を補充して水をあげた。
さて、俺はまだ荒れたところが多く残っている農地の開拓をする。
スタミナが20になるまで働き続け、だいぶ農地が開拓された。
生産系のスキルが上がり、
【伐採】2→6
【採掘】2→5
【農業】2→3
【草刈り】2→5
に上がった。
ちなみに昨日のダンジョン攻略で、【剣戦闘】スキルと【テイム】スキルが上がっている。どちらも1から2に上昇していた。
今日の朝、クラフトをしたことで、【クラフト】スキルが3に上昇した。
【クラフト】スキルが上がると、新しい物をクラフトすることが出来るようになる。
さて、体力をだいぶ消耗したし、少し休憩しなければ。
腹も減ってきたな。
しかしずっとパンばかりでは流石に飽きがくる。
自分で作るのは、レシピを持っていない今では無理だし、食べに行くしかないか。
レミルタウンのレストランといえば、ビラーフィースがある。
いろんな物が食べられる店だ。
味はゲーム時代には味覚がなかったので、分からなかったが、見た目は非常に美味しそうだった。
値段は少々お高めである。
まあ、なるべく安い料理を食べれば問題ないか。
俺はレミルタウンに行き、北にあるビラーフィースに向かった。
「いらっしゃーい」
扉を開けると、カロンコロンという音がなったあと、店員がそう言ってきた。
「あら、あんた見慣れない顔だね」
中年の女性が俺の顔を見て、お決まりの反応を示した。この町は狭く規模が小さいため、住民のほとんどが顔見知りなのだ。
なので初めて見る人間が来たら、誰だって同じような反応を示すだろう。
この女性は、ビラーフィースの店主、エンデル・クライゲンの妻、マイサ・クライゲンである。
主に受付を担当していることが多い。
料理は全て、店主のエンデルが作っている。
俺は彼女に、マイサに新しい牧場主であると告げた。
「ああ、あんたが噂の。よく来てくれたねー。今日はサービスして、全品半額にしちゃおう」
「いいのか?」
「いいのいいのー。ただし次も来て頂戴ね」
幸運にも全額が半額になった。
ゲーム時代はこんなイベントなかったから、げんじつになったからだろうな。ラッキーである。
俺は適当な席に座る。
テーブルにメニューが書いてある紙があった。
流石に写真は載っていない。
俺は、何を頼むか吟味する。
せっかく半額になるんだし、高いものを頼もうか。
俺の予算は百五十ゴールドだからな……。
まあ、金はまた稼げばいいといえばいいか。
高いものといえば、この高級ビーフシチューとパンだな……良質な牛の肉を使っているらしい。
普通なら三百ゴールドするが、半額でちょうど百五十ゴールド……。
頼んだらゴールドがすっからかんになってしまう。
でも、ビーフシチュー……。
はっきり言って大好物だ。
食べたい。
超食べたい。
絶対食べたい。
よし、決めた食う。
「高級ビーフシチューとパンを頼む」
「はいよー」
マイカは厨房に向かって、高級ビーフシチュー一個と声を張り上げた。
しばらくすると、いい匂いが厨房の方から漂ってくる。
ああ、早く食べたい。
俺は腹をグルグルと鳴らしながら、待った。
そして、頼んでから十分後、ビーフシチューが運ばれてきた。
「お待たせー」
運んできたのは、マイカではなく、娘のイチサ・クライゲンであった。
赤い髪の元気そうな少女である。
俺は運ばれてきたシチューにパンをつけて食べた。
美味しい。
非常に美味しい。
昨日から味気のないパンしか食べていない俺には、まさに至福の一品だった。
今度はスプーンを持って、肉を食べた。
柔らかく、一噛みすれば肉の旨味が溢れ出てきた。ああ、肉ってこんなに美味いものだったんだな。
勢いよく食べている時、ふと横を見てみると、娘のイチサが俺が食べているのを横の席に座ってじっと見ていた。食べるのに夢中になりすぎて気づかなかった。
彼女は口からよだれを垂らしている。
こいつ食べたいのか?
そういえば、そんなキャラだったなこいつ。
食いしん坊キャラというか。
客に出した料理にまで食いつくとは、なんたるいやいしんぼだ。
「食べたいのか?」
「食べさせてくれるの!?」
「そうは言ってない」
「け、けちー! 一口でいいから! 一口だけ! あーん!!」
イチサは口をあんぐりとさせて、俺が食べさせてくれるのを待つ。
こいつ今日初めてあったやつに、あーんを求めるとか、どういう神経をしているんだ。
少しからかってやろう。
俺はスプーンでシチューを掬い、それをイチサの口の近くまで持っていく。
イチサが口を閉じるタイミングを見計らって、自分の口に入れた。
「ああああーーーーー!!」
絶叫が響き渡る。
「ひどい! ケチ! 外道! 人でなし! あんぽたん!」
「どんだけ罵倒してくるんだお前。この店の娘なんだから、食べさせて貰えばいいだろう」
「食べさせてくれないんだもん。客に出すものは。だから客のを食うしかないんだもん」
「俺も食わせねーんだよ。こんな美味いもんを人にやることは出来ん」
「うう、一口も無理なの……?」
とイチサは瞳をウルウルさせながら訴えてきた。
いや、泣くほどなのかよ。
「ひ、一口だけなら、別にいいが」
「やったー!!」
イチサは再びアーンした。
今度は普通に食わせてやるかと、口の近くまでスプーンを持って行ったが、そこでこのままなら間接キスになると思い至る。
いや、中学生じゃないんだから間接キスなんか気にしてどうするよ。しかし、俺は現実での恋愛経験なんてまともにないし……。
と迷っていたら痺れを切らしイチサが、自分からスプーンに食らいついてきた。
「うーんおいひいー!!」
スプーンに食らいついたまま、イチサは声を上げる。
俺は、イチサが口に含んだということを意識しながら、残りを食べることになった。
とりあえず完食して、ゴールドを払う。
「そういえば、君誰? 初めてみる顔だけど」
と帰り際になってイチサが尋ねてきた。いや、今更かよ。
「新しく牧場主になったタクマ・サイトウだ」
「ああ、君が噂の!! 私はイチサ・クライゲン。レストラン、ビラーフィースの看板娘だよ、よろしくね!!」
ウインクをして挨拶をしてきた。
そのウインクが妙に可愛くて、少し胸がときめいてしまった。
さっきまであんなに女っぽくないところを見せられたのに、可愛くウインクされただけで、ときめいてしまうとは、俺という生き物は何と単純な生き物なのだろうと、少し自己嫌悪しながら、俺はリターンで牧場に戻った。
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