第8話 女神の夢

 寝ると俺は真っ黒い空間に佇んでいた。


 夢……? 

 それにしては意識がはっきりしているような気がする。


 これは……。


 この状況に心当たりがあった。

 ファンタジーファーム5にもメインストーリーがあるのだが、それ関連のイベントである。

 初めて寝た時に起こるものだ。現実になっても起こるんだな。


『タクマよ、よくぞ来てくれました』


 女性の声が響いた。聞き覚えのある声だ。


 声が聞こえてから数秒後、強い光が俺の目の前に差し込む。


 眩しくて思わず目を閉じる。

 光が収まったてから目を開けると、驚くほど美人な女性が、俺の目の前に立っていた。


 腰まである長い髪は青く、瞳も青い。肌は雪のように白い。

 スタイルは出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでと完璧である。

 男なら誰でも目を惹かれるだろう。

 純白のドレスを身につけており、それがこれ以上ないくらい似合っている。


『初めまして、私は女神クレハです』


 女神クレハ。

 ファンタジーファーム5のメインストーリーにおける重要人物である


 彼女からされる頼まれごとを解決することで、メインストーリーは進行していく。

 もっとも、このゲームのメインストーリーはおまけ程度なもので、深い話があるわけではない。

 クリアしなくても別にいいくらいなのだが、俺にはどうしてもクリアしたいとある理由があった。


 このメインストーリーをクリアすると、このクレハと結婚が出来るようになるのだ。

 ファンタジーファーム5には、色んなキャラがいるのだが、正直クレハの外見はドストライクだった。

 ゲーム時代でも結婚をしていた相手である。子供を三人ほど作った。


 まあ、現実になった今、女神などという高尚な存在と結婚できるかどうかは分からないが、それでもメインストーリーをクリアしないと、確率がゼロであるということは明白だ。


 正直現実になったクレハと結婚して、あれなことを出来るようになったかと思うと、非常に心が躍るというか。

 いや不純な動機で申し訳ないんだけど……。


『タクマ、私はあなたにとあるお願いをするため、こうしてあなたの夢として姿を現すことにしました』

「願い……ごと?」


 と知っているのだが、何となくこの方が会話が成立するような気がして、演技をしてみた。


『いまこの世界に邪悪な神が復活しそうになっております。その神の復活を食い止めるため、私は全力を尽くしておりますが、近い将来その力が尽きてしまうかもしれません。そのためあなたに、神力球しんりょくだまを集めて私の元に来てほしいのです

 神力球とは、日常を生きていくと得られる、力の集まった球の事です。些細な事で手に入ることがありますし、難しいことをして手にいれる必要もあります。全部で1000個ほどありますが、そこまでは必要ありません。200個ほど集めて、私のいるダーステル大神殿まで来てください、お願いします』


 クレハは必死な表情でお願いをしてきた。

 これがこのゲームのメインストーリーだ。

 特にストーリー性があるわけではなく、非常にシンプルなものだ。

 サブストーリーはいくつかあるが、メインストーリーは神力球を集めて、それを持ちダーステル大神殿に行き、ラスボスの邪神を倒したらそれで終了である。

 まあ、ストーリーを売りにしているゲームではなかったので、個人的には評価を下げる要因にはならなかった。


 ゲーム時代では、どれだけ時間をかけても、クレハの力が尽きて邪神が復活するということはなかったが、よく考えてみれば現実になると、復活するかもしれないな。そうなると非常に危険である。何が起こるか分からない。

 これはクレハと結婚したいということを置いておいても、クリアをしなくてはいけないようだな。


 ちなみに神力球200個と言われると、非常にハードルが高いように思えるが、実際はそこまででもない。

 獲得条件が難しい物があるが、カブを収穫するとか、コボルドをテイムするとか、そんな簡単なことをクリアしただけで貰えるものもある。

 200くらいなら、割とすぐに溜まるのだ。


『なぜ自分がそんなことをしなくてはならない、という表情をしていますね』


 全くそんな表情はしていないし、むしろやる気を出していたと思うのだが、クレハはそう言って来た。

 これセリフが臨機応変に変わるとかないのか、現実世界になったというのに。


『あなたは神の力をその身に受ける才能があります。我々は神力人と呼んでいる特殊な人間なのです。これから私が呪文を唱え、あなたの神力人として覚醒させます。すると、明日から神力球を手に入れることが出来るようになります。やっていただけるなら、覚醒をさせてあげましょう。やってくださいますか?』


 そう尋ねてきた。

 俺は「やります」と言って頷いた。

 ちなみにゲームではやるという言うまで、無限ループする。


『ああ、タクマ、ありがとうございます。さっそくあなたの力を覚醒してあげますね』


 そう言ってクレハは、ブツブツと呪文を唱える。


 すると俺の体が暖かい光に包まれた。


『覚醒成功しました。これであなたは神力球を集めることが出来るようになりました』


 特に体が変わった感覚はないが、成功したみたいだ。


『ではこれ以上ここにいることは出来ません。お別れです。タクマの健闘を祈っております』


 すると、クレハは消えていった。


 その瞬間、俺は目を覚ます。


 体を起こして辺りを見回した。

 まだ周囲は暗い。夜は明けていないようだ。


 まだ眠かったので、再び枕に頭を乗せ眠りについた。


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