第7話
「オーケィ、まず事情を説明し合おう」
と言う事で選ばれたのは私の部屋だった。何故に、と思うと、左袒君が携帯端末のマップ機能で、私のアパートが三人の家の丁度真ん中辺りに位置しているのが分かる。仕方ない、と冷凍ご飯をチンして非常食のサトウのごはんもチンしてみんなで松前漬けを囲み、床で晩餐だ。前回の飲み屋とは大違いである事がおかしいやらおかしくないやら。
「ほんとにサトウのごはんだ」
ぽそっと喋ったのは瑠詩葉ちゃんだ。やめて。触れないで。だってバトるかもと思ってご飯炊いてなかったんだもん。それが六畳一間にいきなり四人とか、考えてない。前回で学んだ非常食用の冷凍ご飯があって良かったと、つくづく思う。
「お味噌汁要る人ー」
全員の手が上がった。鍋一つ空だなこれは。ふつふつ沸騰寸前で止めた味噌汁をかき混ぜて、紙コップに注いでいく。さすがにお椀はなかった。なんなら私はサトウのごはんのパックまんま食べてる。今更どうとでもなれ、もう。
「まずは僕からかな」
ずずず、とわかめの味噌汁を飲んだ麻央君が年長者らしく話を進めようとしてくれている。意外と委員長タイプなのか、ありがたい。
「ハルカーン王国に生まれる前の事は覚えていない。弓が得意で高校の頃はアーチェリー部でも鳴らし、大学では弓道をやってた。それなりに強いつもりの勇者だったから、王にスカウトされてこっちの世界に来る事になった。瑠詩葉は?」
「え? あ、私は魔法使いで、炎術が得意で、敵の骨も残さないってのが評判になって、こっちに」
「左袒は?」
「剣士だ。シルゼン公に仕えていたが、腕を買われこちらに」
「由羽紗さんは?」
「えっ」
一瞬でみんなの目が集まる。松前漬けがちょっと喉に詰まった。けふけふ言ってると左袒君がみそ汁のカップを渡してくれる。ありがたい。
「アルジャータ王国で吟遊詩人の用心棒してたんだけど、その腕買われてこっちに。ちなみに私はこっちで暮らしてた前世も覚えてるから、二度目」
「だからコンビニであんなにはしゃぐのか……」
「四十年ぶりだったんだもん、勘弁してよ……武器はレイピア、高校の頃にフェンシングもしてた。あと神経毒の発射ができるかな」
「えぐいな」
「えぐいね」
「えぐいよねー」
「デリデビ謎の結束やめて」
「なんだデリデビって。とりあえず勇者がそろってるわけだ、現状。しかも四人も」
そう。四人も。六畳一間が埋まるほど。
「運命的なものを感じないではない……かな?」
麻央君の言葉に、私も控えめに頷く。瑠詩葉ちゃんにコスプレ披露された時ほどのパニックは起こしていない、奇跡的に。でも今日は眠れないだろうから、おともにデリデビの音楽を聴こう。うん。この人達なんですけどね。
「ねえ、じゃあいっそ真凛ちゃんもバンドに入ってもらったら?」
何を言い出すの瑠詩葉ちゃん。
「そしたら勇者四人の最強バンドじゃない? あと、魔王の特徴聞いてるのも真凛ちゃんだけだし」
「特徴?」
ぴく、と左袒君の眉が上がる。
「あの、前回のライブに出てたらしいの。魔王様のライブの後で殺されるなら本望だって、言ってた魔族がいて」
「あの日出てたのはフェアリーテイルと――」
「僕達に、アカペラバンドのワイルドヘヴン、ギターポップデュオのティーンエイジだね。その十人の中から魔王を探すとなると、結構楽かもしれない」
4:4:2らしい。みんな普通の人に見えたけど。魔力隠されてたらわかんないしなあ。
「とりあえず次のライブでティーンエイジから誘ってみよう。現役高校生とか言ってるけど、転生した魔王である可能性は少なくない。ちなみにみんな、何年に転生の儀式を?」
「三百六年」
「三百八年」
「三百十二年」
「僕は三百一年。結構斑があるから、やっぱり――」
「圏外には置けない……ですよね」
去年まで女子高生だった私と瑠詩葉ちゃんは頷き合う。
さあ。
盛大な釣りの始まりだ。
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