第6話

 瑠詩葉ちゃんの指示通り、私は喉が渇いたからと言って自販機の方に左袒君を連れて行った。すると魔力を開放する気配があり、瑠詩葉ちゃんが事を始めたのが解る。ぴく、と反応した左袒君は、気のせいだろうか。だけどそれについて考える間もなく、もっと大きな魔力が出現する。

「ッ、瑠詩葉! 麻央!」

 慌てて走っていく左袒君に、遅れて私も付いていく。なんで魔力感知が? 左袒君はやっぱりそっち側の人間なの? それとも麻央君に何かあったと悟って? 助けに? どっちを?


 予備動作なしで駆け出したものだからすぐにに息が上がる。大学に入ってからはろくに運動してない所為だろう。ぜーぜーと左袒君の背中に追いついて、その背中のシャツを掴む。

 そうして顔を上げた私の前には。

 コスプレイヤーが二人いた。

「……ハルカーン王国の勇者、マオ」


 ……。

 …………。

 ………………。


 なんかもう。なんかもう。

 やけくそになって私も三人目のコスプレイヤーとして降臨することにする。


「なっ」


 左袒君の声も無視だ、無視。

「アルジャータ王国付き勇者、マリン」

 すると左袒君は、逆に意識を繋ぎ止め。

 ひゅぅっと息を吸い込む。

 やっぱり。

 やっぱりあなたが――


「シルゼン公国勇者、サタン」


 ………………。


「えええええー!?」


 四人のコスプレイヤーが、公園で絶叫した。

 どったらこどだじゃ、一体。



「ここやっはシャープ入れっかな」

「魔王様はあんまり高い声出すとかすれちゃいますからねー」

「魔王ではない。今の俺はフェアリーテイルのボーカル、ユウリだ」

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