第6話

 フライパンの上で、鶏肉とミックスベジタブルが跳ねる。火が通った頃を見計らい、冷蔵庫にあった冷ご飯を投入。さらに、ケチャップと鶏ガラスープの素で味付けをする。

 チキンライスが出来上がったら、お皿に盛り付けて、一度フライパンを洗う。

 次に、卵を三つ、ボウルに割り入れ、菜箸でカチャカチャとかき混ぜる。

 フライパンを加熱し、バターを入れて溶かす。十分に温度が上がったら、用意した卵液を流し入れる。菜箸で軽くかき回した後、フライパンの隅によせて、オムレツの形にする。中がまだ半熟のうちに、さっきのチキンライスの上に盛り付けて──

「わぁっ、すごい!たんぽぽオムライスだ!」

 私が昼食を作るのをずっと見ていた明莉が、歓声を上げる。

「あんたの分は無いわよ」

 天井に張り付くようにしている彼女を見上げてそう告げる。

「そんなぁ……」

 露骨に落ち込んでみせる明莉。沈むように、ゆっくりと落ちてくる。最終的には調理台に埋まっていた。

「その身体じゃ、どうせ食べれないでしょ」

「まあそうだけど。あ、じゃあ卵切るのだけでもやらせてよ」

 調理台から突き出た明莉の生首と会話する。何も知らない人が見たら、ちょっとしたホラー映像だ。まあ、何も知らない人には見えないのだけれど。

「それはいいけど……出来るの?」

「出来るよ!さっき、帰り際に神様に教えてもらったから」

 自慢げにそういうと、明莉は私をすり抜けて、食器棚に近付いて、その取っ手に手を伸ばす。

 すると、不思議な事が起こった。「えいっ」と小さく呟いた明莉の手のひらが淡く発光し、取っ手を掴んだのだ。明莉はそのまま食器棚を開け、中にあったナイフも、反対の手を光らせて取る。

 そして、こちらに戻ってくると、手に持ったナイフで、卵を切り開いてみせた。

「今の、どうやったの?」

「えーとね、手のひらに霊気を込めて、そこだけ実体に干渉できるようにするんだって。場所は、手のひらに限らないみたいだけど、今はこれが限界かなあ」

「そっか」

 相槌を打ちつつ、オムライスを食卓に運ぶ。

 椅子に座って食事を始めようとすると、明莉も向かいの席に座った。

 スプーンで一口分のオムライスをすくって、口に運ぶ。とろりとした卵が、口いっぱいに広がる。

「ねえ、姫乃ちゃん。これからどうしようか」

 頬杖をつく明莉を横目に見ながら、チキンライスを咀嚼し続ける。

「姫乃ちゃん、聞いてる?」

 ごくり、とそれらを飲み込んでから、私は明莉に応える。

「口に物が入ってる状態で、喋れる訳ないでしょ」

「あ、ごめん」

「明莉の未練の事なら、生きてた時の明莉について、よく知ってる人に聞くしかないでしょ」

 私には、分からないんだから。

 言外にそう伝えると、明莉は表情を曇らせた。その姿が、揺らぐ。神社の時みたいに。

「情報収集なら、私も協力するから」

「……うん。ありがと」

 その後、私達は一言も、話さなかった。私はただ、黙々と昼食を食べ進めたし、明莉も、それを黙って見ていた。

 食事が終わる頃、明莉が再び口を開いた。

「私の事をよく知ってる人。心当たりがある」

 告げられた名は、私も知っていた。

「明日、姫乃ちゃんが良ければ、会いに行こう」

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