第3話
私達は巫女に促されるまま、拝殿と呼ばれる建物の中に入った。
「どうぞ、座って下さい……」
床には、座布団が三つ用意されていた。私と彼女、そしてもう一つは明莉の分だろう。
「巫女さんは、座らないんですか?」
ふわふわと浮かぶのをやめ、久しぶりに地に足をつけて座った明莉が巫女に尋ねた。
「幽霊について聞きに来られたのですよね……。でしたら、私よりも適任の方がいらっしゃいますので。……少々お待ちください」
そう言うと、巫女は私達に背を向け、おもむろに祝詞らしき文章を唱えだした。
当初の弱々しさなど見る影もない、凛とした声。その堂々とした姿は、彼女が紛うことなき本物の神職なのだと、物語っている。
が、しかし──
「何これ?」
明莉が私の考えていた事を代弁かのするように、聞いてくる。
「さあ……」
私達には分からない意味でもあるんじゃないの?
と、言おうとしたその時。巫女がくるりとこちらを振り返った。
「あの、何して──」
「お主ら、運がいいのう!何しろこの
高らかにそう言って呵呵大笑する巫女。その姿に、当初の弱々しさ、否、もはや慎ましさすら見る影もない。むしろ図々しさの塊にしか見えなかった。
「……は?」
「……え?」
私と明莉は、目の前で起こった意味不明なまでの巫女の変貌ぶりに、そろって絶句する。
「ほらほら、何を黙り込んでおるのじゃ。何でも質問してみせよ。特別にいくつでも答えてやろう」
「えと……あなたは、誰?」
ついていけないといった風に、目をぱちぱちさせて明莉が問う。
その姿は、確かにさっき私達を迎えてくれた巫女なのだ。背格好も顔も、何一つ変わってはいない。が、態度と喋り方と表情筋の使い方が変わっただけで別人にしか見えなかった。
「なんと、お主、
巫女は、いや、巫女の姿をした『何か』は、明莉の質問には答えず、代わりに彼女の頬をうにうにとつまんで、それだけの事を一息に言ってみせた。
「ふぇええ……。あう、ひふほん……」
「うにゃ?おお、質問じゃな!
その『何か』が、明莉の頬をパッと離した。明莉が痛そうに頬を押さえる。
「
『何か』はそこで一度言葉を切り、思わせぶりにこちらを見る。
「神じゃ!!」
「……は?いや……え?……はあ!?」
「は?ではないぞ、黒髪の娘よ。
いや、どこの世界に自分の名前を忘れる神様がいるのだ。こいつ、馬鹿なのか?
「これ、小娘!今失礼な事を考えとったろう!
高校受験の時、明莉が似たような事を言っていた気がする。
「ただの言い訳でしょ」
あの時、明莉に何度となく言った言葉を、目の前の自称神にも言う。
「なっ!酷いではないか!そんな事を云うのであれば、もうお主らには協力せぬぞ!?それでもよいのか!?」
顔を赤くして怒る自称神。威厳など欠けらも無い。本当にこいつが神様なのだろうか。こんなのを拝んでたと思うと、大分バカバカしく思えてくるのだけど……。
「それは困る……。お願い、協力して」
「おお、幽霊の娘!勿論じゃ。お主の願いなら喜んで叶えるぞ!」
「はあ……」
現金というか何というか……。
しかも、
「ありがとう、神様」
明莉が笑顔を見せる。生きていた時と寸分違わぬ、眩しい笑顔。
「お主は
自称神がうっとりとした顔で明莉を見つめる。
「ところでお主ら、名は何と云うのじゃ?」
「はあ……」
この自称神、相当阿呆だ。もっと前に聞くタイミング、あったでしょ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます