天気予報に反して小雨の降った7月の宵、コップの水滴の跡がいくつも残るテーブルの前でコップに注がれた一杯のサングリアの話

 どうしてこうなっちゃうのかなあ、といつも思う。

 なんだかいつも貧乏くじを引いているような気がする。子どものころからそうだ。順番待ちしてるならあたしは後でいいよ、と言うといつだって、順番が回ってくる頃には欲しかったものはなくなっていた。

 おしゃれなグラスに注がれたサングリア。あたしが頼んだわけじゃないのに、あたしの前に置かれた。だって既にこの席にはあたししかいないから。

 遥香が遼平を狙ってただなんて知らなかった。せめてあたしには言ってくれても良かったと思うけど、あの子がそういう子だって言うことは知ってたし、あたしだって遥香に言ってないことがいくつもあるんだから、しょうがないとも思う。

 サングリア、久しぶりに飲んでみようかなと思ってグラスに口を付ける。強いアルコールとフルーツの香りが鼻の奥に広がって、思わずグラスを遠ざける。やっぱり、好きじゃない。

 天気予報では晴れだったのに、雨が降ったのが悪かった。小雨だったけどしっとり濡れるには十分で、あたしは雨が降る前に店に入っていたけど、遅れて待ち合わせに来た二人は同じくらい濡れていて、顔を見合わせた途端笑い出した。

 その瞬間、なんだかもう分かっちゃった。ああ、置いてきぼりにされるな、って。

 最近の仕事とか、今日来られなかった子の話とか、そんなことで盛り上がったのはごく短い時間で、遼平がトイレで席を外した時、二人で抜けていいかと聞かれて嫌だとは答えられなかった。だって遼平もずっと、濡れて少し寒そうな遥香の肩を見てたから。七月に入って梅雨が明け、薄着の季節になったけど、こういう天気の時はやっぱり肌寒い。

 ちょっと時間がかかる小皿を頼んで、寒くなってきちゃった、と小芝居を打たれて、あたしは頼んだのを食べてから帰るよと茶番を演じて。あーあ、まだ集まったばかりだったのに。全員が、この先誰と誰がどうなって誰がどうするか分かってるのに、こんなふうに取り繕う意味ってなんだろうと思いながら、ごめんなと言いながら笑っている遼平に首を振る。

 いいよ、また集まろうね。

 なんて白々しい言葉。

 もっと、楽しい集まりになると思ってたんだけどな。テーブルに残る丸い水滴のあとが目に付く。あの二人、そんなにいなかったのに、結構飲んだ。

 遥香はああいう子だし、おしゃれなお酒も料理もあんまり好きじゃなくって、折りたたみ傘を持ち歩くようなあたしとは気が合わないし、いつもあたしが損しているような気がしている。

 それでも、どうして。あたしはあの子が残した丸いあとを指でなぞって、何の味もしないそれを舐める。

 それでも、どういうわけか、あたしはあの子が好きなのだ。

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