わたしたちがまだくだらない話ができた頃、異国の人のための墓地でまだやってこない順番についての話
父が死んで外人墓地に亡骸を埋葬した時、わたしたち
他に送る人もいなかったので、三人だけで見送った後、煙草を吸いながら広い敷地内をぶらぶら歩いて、冗談を言って笑い合った。
「すごいお墓がある。日本の田舎もびっくり」
「こっち、日本人の名前もある。結婚した人なのかな?」
平日だったので人も少なく、無作法で不謹慎で故人を踏みにじるようなそれらの行為をたしなめる人はいなかった。バカみたいに天気が良い日で、雲ひとつない空は底抜けに青く、兄がふっと息を吐くと、紫煙がゆらゆらと上っていった。父はそのまま埋葬したし、火葬に立ち会ったことはないけれど、この国の文化ではそれが一般的なのだから、あの人も喜ぶだろうかと感傷めいたことを思った。
「わたしたちも、死んだらここに埋めてもらう?」
空を見上げながら問うと、さァなと兄は笑った。姉は笑って、いやよと首を振る。
「わたしが死んだら、灰を海に撒いてちょうだい。お父さんと一緒に埋まるなんて、うるさそうでうんざり」
「日本は散骨に厳しいらしい」
「じゃあ、誰も知らない所で死ぬわ。そこで土になるまで朽ちるから、わたしと連絡が取れなくなったら、そういうことだと思ってね」
破天荒で自由な姉に、いかにもありそうなことだったのでわたしたちは笑った。
「お前は」
兄に問われて、わたしは少し考えた。正面の墓には読めない文字が彫られていて、知らない宗教の象徴が刻まれている。生まれた所とは違う国で、この人はどう生きて死んでいったのだろうか。
「わたしは……ここでいいかな。近くに埋葬されたら、もしかしたら死後の世界で会えるかもしれないよ」
そうしたら、ここの人たちはどんな思いで暮らしていたのか、聞いてみたい。
お前らしいな、と兄は笑った。
それからずいぶん時間が経って、わたしたちは仲が良い兄妹とは言えなくなって、けれど兄も姉も結局わたしが看取ることになった。
破天荒な姉は兄に心配をかけ続け、迷惑をかけないよう姿を消して、けれど病気になった時、わたしたちしかいなかった。
誰にも頼らず、自立して生きていきたいとがんばっていた責任感の強い兄も、妹を時々責めたことを後悔したまま倒れたので、わたしが最期まで面倒を見た。
父の近くに埋葬した二人は、昔と同じように笑って話しているだろうか。父もまじえ、口喧嘩しながらでも、異国で生きたことを後悔していないと良いなと思う。
「おばあちゃん、もう迎え来るって」
「はあい、行きますよ」
小さな子がわたしを呼ぶので立ち上がった。
わたしはきっと、ここには眠らない。けれどきっと、向こうでまた会える。
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