4.未来塾の職人
厚い雲の間から、夏を待ちきれない太陽の熱い日差しが時々さしこむ日だった。この週末で長引く梅雨と一学期が終わろとしていたが、代わりに未来塾の本格的な授業が始まった。教室には、この前よりも少し穏やかな表情をした遥ちゃんの姿があった。
「私、未来塾に来たくて、前の塾やめちゃったんだ。塾内模試とかランキングとか…クラス替えとか……なんか嫌になっちゃって。親には最初は反対されたけど……」
遥ちゃんがやめた塾は、順二の通う名門進学塾だった……。
「でも、この前、説明講座で神乃さんが話したことを伝えたら、理解してくれたんだ」
「そうなんだ。俺はたまたま未来塾の勧誘チラシに騙されてね……あ、まだ騙されてないか……」
と冗談かどうかは、言った自分でもわからなかったけど、遥ちゃんの笑顔を引き出したことはわかった。
今日の授業は『教師』と『システムエンジニア』。明日は『介護士』と『航空管制官』。あさっては『文芸員』と『商品開発者』。しあさっては『会計士』と『獣医』……というように、毎日2コマずつ開かれる。これを8月末まで受講すれば、計算上、80種類以上の仕事がわかることになる。また、足りない場合は、自由に追加授業を受けることができる。とにかく、なりたい自分の姿が見えてくるまで、とことん授業を受けられるのだ。
どの授業も、講師の話がみんな面白くて、自分の気持ちに『いいね!』がついた。内容もとてもためになり、興味深いものばかりだった。朝起きる時間から通勤時間、勤務先での準備、午前中の仕事、昼休みに、午後の仕事。残業時間からプライベート、会社の待遇など、時にはコンプライアンスに抵触しそうなギリギリの話もしてくれる。どの講師も共通して言えるのが、なぜその仕事をしているのか、しっかりとした根拠というか信念があること。また、その先にある未来の自分の姿、目標が明確になっていることだった。
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