5.人を助ける“ドラえもん”
そんな未来塾に通いはじめてから、あっという間に1ヶ月。8月も終わりに近づいていたが、近くで鳴くセミの大合唱は、終わることはなかった。
「私、薬品研究者を目指すことに決めたんだ」
突然というか、必然的な流れの遥ちゃんの告白に一機は動じることなく、
「薬品研究者、いい仕事だよな。頑張れよ」
遥ちゃんには5歳年下の弟がいて、生まれつき難病に指定されている病気にかかっているらしい。日常生活に不自由はないけれど、どうやら毎日、何種類ものクスリを飲まなければならないみたいだ。弟に限らず、世の中の病気で苦しむ人たちを自分が開発する新しい薬で助けてあげたいと考えたのだ。
「俺は、臨床工学技士を目指すことに決めたよ」
一機は、こう考えた。今の時代、自分の身の回りには便利さや快適さを追求して生み出された機械、ロボットなどが溢れている。また、それらに関連する事業が数多く存在し、経済活動を行っていて、自分たちはその恩恵を受けている。でも、人間の便利さや快適さへの欲望はだいぶ満たされてきた。もう飽和状態に近いのではないかと。その代償として警鐘を鳴らすように、生命を脅かすような地球温暖化などの諸問題が起きているのでは。だから、自分は、最先端技術を取り入れた医療機器や医療ロボットを駆使して、便利さや快適さの追求よりも優先されるべき、人の命や安全を守る仕事がしたいと……。
「人を助けたい……つながりだね。お互いに。“ドラえもん”になろうよ」
遥ちゃんは、メガネの奥の目尻を下げて、柔らかく微笑んだ。自分も軽くうなずき、笑顔で答えた。
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