第8話

僕たちはビルのしたに降りてきた、もう真夜中、スナックもボチボチ

終わる時間であろう。


家路につく酔客たちがちらほらみえる

ネオンは店に入る前より確実に減っており、宴の終わりを演出していた。


ボーイ「じゃあ、駐車場へ送っていきますよ、政信さんはその後で皆さんがいる居酒屋まで送りますので」


おば「まだ帰る気分じゃないな~」


ボーイ「じゃあどこかもう少し年代が高いお店を紹介しましょうか?」


もう、宴は終わったのだ・・パーティは永遠ではない、ダンス相手のいないミセスはもう現実に戻る時間が来たのだ。


もう十分、良い夢をみたであろう、グッナイの呪文で夢物語へと変わってしまうのさ、ミセス。


生まれてくる時代が少し違っただけなのだ、そう、来世がもしもまたあるならその時同じ時代に出会いましょうミセス


その瞬間、おばは一オクターブ高い声で顔を高揚させて大きな声を出した。


おば「わたしも一緒に、いぐぅ!」


俺「いや、さすがに上司とかもいるので、ちょっと難しいですね、また今度いきましよ!」


もちろん、ミセスとの時間は永遠に訪れることはない、もちろん社交辞令であり、彼女にもそれは伝わってたであろう。興奮している彼女をなだめるなだめる紳士の様に対応できる自分が誇らしかった。


おば「何時に終わるの?待ってる」


おばとの時間はすでに終わったのだ、それは何時になってもかわらない、産まれた時代が違うが為に、時の流れがマッチすることができない悲しい定めの2人なのである。


ボーイ「とりあえず駐車場へいきましょう」


僕たちはとりあえず歩き出した、10月の青森の夜は立ち話するには寒すぎる。

交差点に差し掛かり再びボーイがおばに駐車場の場所を聞く


おば「あっち、でも近いから、、」

ボーイ「いいですよ、駐車場までいきましょう」


しかしおばは、おばで一世一代の晴れ舞台、旅の恥は書き捨て、すでに「私もいぐぅ!」の言葉、いや呪文というべきか、清水の舞台から飛び降りた、おば。すでにテイクオフして、素性を一切証していない彼女は、ここでどのような結果になってもデメリットは無いのである。


今、ある現実、すなわちおばの脳裏にあるのは、若いエキスを頂けるのか頂けないのか、この2つだけなのだ、いわば動物が美味しそうな餌をみせられたが届かないところに置かれて、いかにすれば食べることが出来るのか、試行錯誤する、そういう状態なのだ。


そう彼女は、宴の舞台に立ってる訳ではない。

今、はっきりと分かった。狩に興じていたのだった。


したたかにその布の中に隠された若いエキスを吸いたくてしょうがないのだ。


そう考えると、聞き分けが悪いわけではない、すでに理性はぶっ飛びアドレナリンが吹き出すのを彼女は感じとっていた事だろう。

これを俗にエクスタシーというのかもしれない。


徐々に興奮を覚え、どう戦略的かつ最短で餌にありつくのかを考えている。


しかし、今、餌が自分のみえるところから、さらに複雑な場所へ移動してしまう現実に彼女の思考回路は煙をあげているのだ。


おば「私はあなたを送ってから帰るわ」


そうだ、時間が欲しい。

どうすればこの状況を覆す事が出来るのか、おばのプランが遠退くなか、彼女に残されたカードはこれくらいしかないだろう、とにかく時間を稼ぐ、そして案を練る。


ん・・・ちょっとまてよ。。。

これは狩りではなく、すでにプレイが始まってるのではないだろうか、、そんな事を思い始めたときだった。


ボーイ「どうします?」

と、少し困ったかおで僕を見つめてくる。


う~ん、どう考えても「送る」という言葉に断る理由がない。まさに正論は時にして悪にありえるのだ。


仮に、送らなくてOKですと答えても確実におばはこの場から離れる気はない。。

しかし問題なのは、居酒屋の場所はボーイしか分からないという点である。


僕は歩きながら考えた、場所がばれたらこのおばはきっと入ってくる、入ってくると一人なのがばれる、ばれると同席になる、同席になると部屋にきたいとなる、その話になれば振り出しに戻る、結果、押し問答になって睡眠時間が削られる。。誰も得しない。


いや、居酒屋は狭いらしいから店員や客に会話が聞こえる、見方によっては、僕がおばさんを持ち帰ろうとしてるようにもみえる、結果、晒し者になって終わりである。


ロリコンから一気に熟女志向になってしまう、、この青森で数丁歩いただけで、一気にロリっこから熟女好きに大変身だ、、


なぜ、コンビニに行って街を散歩しただけでこうなってしまったのか、、ホテルのサービスで部屋にフェロモン香水でも散布してあったのだろうか


いずれにしても、おばは狩に興じているのだ、心なしか目の奥が笑ってないように見えなくもない。


どれくらい歩いただろうか

歩きながらも散々、「待ってる」、「帰りたくない」、「ご飯食べに行こう」と言いつづけていたおばだが


さすがに撒くのは無理だ


ボーイ「まだ結構先なんですよね、、でも店にも戻らないといけなくて」


瞬時にボーイがいったことを察知した、これはいわゆるゴールデンパスだ、最終手段として僕一人を逃がそうとしてくれてるのである。


俺「わかりました、僕はもう大丈夫なんでおばを送ってあげてください、店はどの辺ですか?」


ボーイ「この道をまっすぐ進んで暫く行くと左側に録という店があります、そこです。」


大きな交差点に差し掛かっていた。幸いにも信号は青だ


俺「助かります、ありがとうございました。おねぇさんも今日はありがとうございました!」


返事もろくに聞かずに僕は走って信号を渡った。

点滅するのを見計らって猛ダッシュした。


この時、僕は確信した、解放という現実を。。


いや、この時はまだ分からなかったんだ。

狩は終わっていないことに。。

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