脳死 生きている事が当たり前の方々へ

齋藤 晶

第1話

ある日僕は交通事故に遭った。


本当に一瞬の出来事であった。


右から勢いよく車が走っているのが、記憶に残っている。


しかし車に当たる瞬間はとても時間がスローモーシ


ョンに進む様な感じがした。


それから救急車のサイレンの音が断片的に聞こえて


来た。


まるで眠るように気が遠くなっていった。

 

すると、病院に着くと、体に何も力が入らないよう


になっていた。


目も開く事ができない。


手も動かせない。


痛みもない。


しかし、耳だけは聞こえる。


とっても不思議な感覚だった。


麻酔でも掛けられているのだとその時僕は、考えて


いた。

 

すると数時間経つと静かな部屋に入って来たよう


だ。


早く感覚が戻ってこないかな。


と仕切りに期待していた。


だがこの時はまだ、この感覚は火葬されるまでずっ


と続くとは、思いも知らなかった。


すると、医者と僕の両親が会話しているのが聞こえ


てきた。


両親は泣いている。


医者は申し訳なさそうに、脳死である事実を告げ


た。


そして両親を含め死亡確認をした。


もちろん感覚もない。


光を当てられていたが、眩しいという概念すらな


い。


僕は全てを悟った。


僕は死んだんだ。


僕は死んでしまったんだ。


僕を突然虚無感が包む。両親は、回復を待たずに、


死亡という結果を選んだ。

 

僕は、両親に伝えたい思いがいっぱい溢れていた。


「産んでくれてありがとう。」


「育ててくれてありがとう。」


「温かく見守ってくれてありがとう。」


まだまだ僕は、伝えきれない思いがいっぱいあった。


何気ない、一日がとても幸せに感じた。


友達と遊んだあの日。


家族と過ごしたあの日。


しんどくてずっと寝込んでいたあの日。


暇を持て余していたあの日も、全てが懐かしく思え


た。


もっと今ある幸せに気付いて、大切にすれば良かっ


たと僕は後悔した。


なくなって気付く幸せがあるというの事を痛感し


た。

 

後悔する毎日を過ごしていた。


するととうとう、火葬する日がやってきた。


その日は不思議と楽な気持ちになった。


泣き噦る両親や身内の方の声が聞こえていた。

 

そして、とうとうお別れの時がきた。


僕は、お別れの言葉を心の中で叫んだ。


周りがジリジリと焼く音が聞こえた。


しかしそこで不可解な音が聞こえてきた。


チリンチリンチリン


そこで僕は、はっと、目を覚ました。


あ、これは夢だったんだと、安堵した直後、涙が止


まらなかった。

 

すると僕は、両親や身内に、感謝の意を伝えた。


みんな不思議がっていたが、僕は、満足だった。


それから僕は、毎日毎日大切に過ごし、毎日生きる


ていることに感謝して生きている。


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