第五章 星夜

星夜①

「――お兄ちゃん、与鷹」


 車のエンジンが止まり、遠くから母の声が聞こえてくる。

 隣でナオが動いたので、与鷹も目が覚めた。まぶたが重い。眠たい。突然感じる寒気に身震いした。耳と鼻が冷たくなっている。

 ぐすんと鼻を鳴らすと、母の手が伸びてきた。肩を揺さぶられる。


「二人とも、起きて。ついたよ」

「どこに?」


 のんびりとあくびをするナオが、しぶしぶといった様子で聞く。兄の声なのに、子どものような高さだった。

 これは夢だ。この記憶は小学三年生くらいのことだろう。薄目で辺りを見回すと、ナオの左手が見えた。まっさらで、少しふくよかな手のひらだった。すると、ナオが急に声を弾ませた。


「あ! 星! お母さん、ついたの!?」


 寝ぼけた頭が覚めたのだろう。無邪気にはしゃいでいる。ナオは与鷹を押しのけて車のドアを開けた。

 しかし、与鷹はまだ起き上がらない。絶対に出てやるものかと頑固に渋っている。冷たい冬の空気が流れ込んできて、ますます体を強張らせた。


「ほーら。与鷹も起きなさい。お留守番するの?」

「まだ眠いよ……」

「おい、起きろ、ヨダ! 流星群りゅうせいぐん見に行くぞ!」


 ナオが肩を乱暴に揺さぶってくる。


「やめて」

「いいから早く起きろ! どうせ、今度はなんで起こしてくれないのーって泣くんだから」


 ここぞとばかりに冷やかしてくる。与鷹はようやく体を起こした。気だるく、眠たい。

 流星群を見るよりも、温かい車の中で夢をみていたい。しかし、興味をそそるものではある。前々から父と約束していたし、行く直前までワクワクが止まらなかった。寝落ちてしまったことが悔やまれる。

 のろのろと靴を履いていると、母が上からダウンを着せてきた。その後ろでナオが父の元へ駆け寄っていく。


「父さーん。俺の望遠鏡、早くー」


 車を飛び出していき、外にいる父と楽しげに話している。それをぼんやり聞きながら、与鷹は母を見上げた。


「お母さん」

「何?」

「ぼく、行きたくないよ」

「どうして?」


 目を丸くする母の顔は、なんだか怒っているようだった。母はいつも口調が厳しい。それが怖くて、つい首をすくめる。


「だって、眠たいもん」

「あんなに楽しみにしてたじゃない。嘘だったの?」


 厳しく言われると反論ができない。与鷹はふるりと肩を震わせ、くしゃみを飛ばした。


「マフラーも巻いていこうね」


 そう言って、母がかたわらに放ってあったマフラーを取る。与鷹の首に巻きつけようとした。

 それが、どうして今、を思い出したのか分からないが、与鷹の全身に恐怖が駆け巡り、思わず母の手を払いのけた。


「やめて!」


 なんだか声は自分のものじゃないように思えた。十四歳の与鷹に戻っている。

 しかし、目の前にはマフラーを悲しげに持つ母と、その奥で父と楽しそうに話すナオの姿が停止する。次第に遠ざかっていき、暗い外へ吸い込まれていく。

 景色が旋回せんかいし、うねり、ねじれていく。与鷹は恐怖のあまり、手を伸ばした。


「ごめんなさい……待って、置いてかないで」


 楽しかった日々はもう遠い。どんどん消えていく。頭の中の記憶からも、消えていってしまう。それが嫌でたまらなく寂しくて、泣き叫びたくなる。幼い子どものように、声をあげて必死に繋ぎ止めたくなる。


「もう戻れねぇよ」


 背後でナオの冷たい声が聞こえた。

 振り返れば、顔を黒いマーカーで塗りつぶしたような人がいる。誰かは分からない。その黒い人物が与鷹の背中を押した。トン、と軽く。それだけで体はバランスを崩していき、真っ暗な穴に放り込まれた。


「やだ、待って、助けて……助けて……誰か、助けて!」


 底のない暗闇に落とされ、体は自由がきかずに落下していく。

 夢なら覚めてほしい。こんな悪夢、もう見ていたくない。誰も助けてくれない。そんな悲しいことは考えたくない。どうしてこんなことになってしまったんだろう。幸せだった記憶も確かにあったはずなのに――


 目を開けると、光があった。

 無数の光。白、赤、青、黄。

 光の明滅が闇に浮かんでは消えていく。曖昧な白い星雲、宝石のように輝きを集めている星団、そして、強い引力を渦巻いている銀河。中心に黒い穴があった。そこに向かって落ちていく。もうどうにもならない。伸ばした手は、誰もつかんではくれない。




 唐突に耳元が騒がしくなった。

 リリーン、と電話のベルみたいな音が鳴り響き、与鷹は布団を蹴飛ばして飛び起きた。扇風機の風が当たって髪がしなる。ひたいにはわずかに汗が浮かんでいて、心臓は早鐘を打っている。

 固いコンクリートと未完成の投影機がある部室だと確認し、ようやく息を整えた。


「おはよう」


 ゴソゴソとブランケットから出てくる我竜に、与鷹は小さく「おはよう」と返した。声を出せば、少しだけ体が温まった。


「今日から学校かー。あっという間だね」


 八月二十八日は始業式だった。外は今日もこんがり暑そうで、六時半だというのに光が窓に射し込んでいた。

 与鷹はスマートフォンでセットしていた目覚ましの、けたたましい音をようやく止めた。頭がぼうっとする。

 我竜も目をこすって、腹を掻きながら冷蔵庫を物色しに、ロッカーを降りてきた。


「先輩はまだ寝ててもいいのに」


 気遣いのつもりで言うと、彼は「んー」と寝ぼけた声で返事する。


「ご心配なく。あとでまた寝るから」


 冷蔵庫から与鷹の朝食と自分の牛乳を取り出していた。それをポンと軽く放り込まれる。慌ててキャッチして、与鷹は布団で先に身支度を済ませた。

 バタバタと慌ただしく動き回る中、我竜はロッカーに座って外の様子を眺めている。手製の双眼鏡では正門までよく見えるらしい。

 制服に着替えた与鷹は、その背中に自信のない声を投げた。


「先輩……」

「ん?」

「ぼく、今日、本当に学校に行っても大丈夫かな」


 本当は休んでおきたいのだが、我竜や響が「行け」とうるさいので、しぶしぶ決めたのだった。しかし、不安は尽きない。


「学校に母さんが来るかもしれないし、先生にもバレてるかもしれないし」

「それを確かめるために君を学校に送り込むんだよ」


 我竜は牛乳のストローを吸い上げ、一息ついた。パックを丁寧に折りたたんでいく。


「君の無事を伝えるためには学校に行かなくちゃダメだ。大丈夫。君を助けるって約束した僕のために、とりあえず行ってきてよ」


 無理な約束だったと思うが、彼の口調は軽妙けいみょうに楽観的だ。

 与鷹はクリームパンを頬張って牛乳を一気に飲み干した。スマートフォンを制服のポケットに入れ、カバンに夏休みの課題を詰め込む。そして、水色のパーカーを上からかぶった。


「それね……まぁ、変装はできてないけど、いいだろう。朝も早いし。あとは、響の迎えを待つだけだ」


 言っているうちに、我竜のスマートフォンが鳴った。彼は楽しそうに画面をタップし、トークアプリの画面を見せてくる。


「正門の前で待機中だってさ。よし、与鷹、行っておいで」

「行ってきます」


 なんだか久しぶりに言った言葉だった。無駄に緊張してしまう。ロッカーから降りてきた我竜が、与鷹の背中を穏やかに押した。


「気をつけて」


 部室の重たいドアを開けると、すぐに光が射し込んでくる。その明るさに怯えながら、与鷹はフードを目深まぶかにかぶった。


 ***


 学校よりも手前の坂道で降ろしてもらい、恐る恐る校門まで行く。

 響は手を振って見送ってくれたが、こちらも警戒心あらわに、手には双眼鏡を持っている。しばらく観察しておくと言っていたが、不審者として通報されないか心配だ。


 白いセーラー服や、カッターシャツが光に反射している。楽しげに笑い合う顔を見ていると、たった一ヶ月半見なかっただけで懐かしさを感じた。小走りに校門をくぐる。誰にも怪しまれず、堂々と群れの中に入って行けば、身を隠せるように思えた。

 昇降口を入って、ふと振り返る。

 母はいない。行方不明の息子を探しに乗り込んでくる可能性も考えにはあったのだが、どうやらそこまでしようとは思わないらしい。


 ――まぁ、そうだろうな。


 勝手にしろ、という最後の言葉から何も連絡はない。本当にこのままでいいのか。

 あれだけ見捨てないでと言っていたのに、母の感情がいつまで経っても分からない。親不孝者だから、母のことを分かってやれないのだろうか。

 あんなひどいことを兄にも自分にも向けて、そうしなければいけなかった理由は感情の抑圧か、他人への羨望せんぼうか、周囲からのプレッシャーか。無自覚に振るっていたのなら、それじゃあ、一体誰をうらめばいいんだろう――


「おー! おはよー、有馬! 久しぶり!」


 靴箱の前で佇んでいると、すのこをゆがませる大柄な男子が与鷹の背中を叩いた。スナップの効いた馬鹿力のせいで、内臓がひっくり返りそうな衝撃が襲う。思わず靴箱に寄りかかった。


「いっ、たぁぁぁぁ……! 中川か……何すんだよ」

「あははははは! ぼーっとしてるのが悪りぃんだよー」


 与鷹の反応が面白かったらしく、中川は豪快に笑った。靴を履き替えて、与鷹を待たずに教室へ走る。その後ろを追いかけた。一発食らわせないと気が済まない。

 しかし、教室に行くまで追いつけなかった。横にも縦にも大きいくせにすばしっこいのがなんとも解せないが、柔道部に勝てるわけがなかった。



 始業式と課題テストが終わってもなお、クラスメイトたちは楽しげであれこれと夏休み中の話をしていた。中には、他愛たあいもない昨夜のテレビドラマの話だったり、塾での志望校判定だったりと会話のネタは幅広い。

 与鷹は自分の席で気だるく寝そべっていた。そのだらしなさを、友人たちから冷やかされたが、適当にあしらっていた。がんとして机から離れずにいるので、話しかけてくる友人も入れ替わっていく。

 やり過ごしていると、大柄で短髪の男子が空いていた前の席にどっかりと座った。今朝に仕留しとそこなった中川である。彼とは小学生の頃から気が合う友人の一人だ。


「大会はどうだった?」


 のんびりと聞いてみると、中川は気まずそうに笑った。


「市大会突破は難しいよな……やっぱ、中学から始めたのと小さい頃からやってるのとじゃ、天と地ほど差がある」

「負けたんだ」

「惜しいとこまでいったけどなー、無事に引退だよ」

「お疲れ様でした」


 半ばからかいを含んだ笑いを交えながら与鷹が頭を下げると、中川も同じようにかしこまって頭を下げる。


「我が生涯に一片の悔いなし」

「はいはい、お疲れお疲れ」


 聞いたことのあるフレーズをおどけて使うところ、負けた悔しさはとうに消化しているようだ。与鷹は労いもそこそこに机に寝そべった。沈黙が入る。


「なぁ、有馬。模試もしの判定どうだった?」


 すぐに中川が話題を振ってくる。与鷹は口をゆがめた。受験の話は耳を塞ぎたい。ここは適当に話をそらそう。


「まぁまぁかな。中川は?」

「俺はC判定出ちゃってさぁ。母さんからものすごく叱られたんだけど」

「へぇぇ。どこ受けるんだっけ?」

「桐朋館だよ」

「うわっ、無謀むぼうすぎる」


 与鷹は辛辣しんらつに言い放ってやると、中川は無邪気に与鷹の頭に肘を押し付けた。


「お前、俺の偏差値なめんなよ? 紅林くればやしならA判定だし。スポーツ推薦すいせんも取れそうなんだけどさ」

「じゃあ紅林に行けばいいじゃん」

「いや、妥協だきょうしたくねぇ」


 中川は顔をムッとさせていった。どうにも対抗心に火をつけてしまったらしい。与鷹はのろのろと体を起こして思案した。

 確か、紅林高校もそれなりに偏差値が高いはずだ。桐朋館高校よりも十は下がるだろうが。それでも、妥協案とは言えないと思う。


「分かってねぇな、有馬。紅林に行っても、進学するっていったら美の里大だよ」


 思わぬところで飛び出てきた美の里大学の名前に、与鷹の胸がどきりと音を立てる。「へぇぇ」と声を硬くし、相づちを打ったが幸いにも中川は気づいていない。


「あそこの学校はだいたい、美の里に行くんだって塾の先生が言ってた。そりゃ、美の里大も悪くないけど、俺はもっと上の大学に行きたい。そんで、在学中に起業する」

「うわ、もうそんなことまで考えてんだ……」

「当たり前だろ。なんのために学校選ぶと思ってんだよ」


 同級生の人生展望論に与鷹は素直に舌を巻いた。

 もう先のことを見据みすえているなんて。比べて自分は目先の道を進むのに精一杯で、その道でさえ暗くて足取りはおぼつかない。未来の話なんて、それこそ自分にとっては無謀なものだ。


「有馬は桐朋館行かねぇの?」

「なんで?」


 つい反射的に顔をしかめた。しかし、中川は容赦しない。


「だって、お前の兄ちゃん、桐朋館だろ? 毎年何人か行ってるらしいけど、特待生とくたいせいで行ったのってナオ先輩だけだし。できたら先輩に受験対策してもらいたいんだけど」


 なるほど、それが目的か。与鷹は友人の思惑を読み解いた。

 受験勉強に必死なところを邪魔したくはないが、こちらの事情は正直、受験どころではない。意地悪を言いたいわけではないが、与鷹の口は冷たくなった。


「お前がそんなに貪欲どんよくな人間だったとは知らなかったよ」

「聞き捨てならねぇな」


 冗談と受け止めてくれたのか、中川は豪快に笑った。

 こちらの状況を何も知らないから、安心して笑ってくれる。こんな他愛ない日常に水を差すことなんてできるはずがない。「ぼくは明日も生きていけるか分からないんだよ」なんて言えるわけがない。


「大体、兄ちゃんに頼んでも、そんなことしてくれないよ。家にいないし」

「寮に入ってるんだっけ」

「うん。この前会ったけど、勉強で忙しいってさ」

「そっかー……でも、そこをなんとか」

「無理なものは無理。もうあっち行けよ。ぼくは眠いんだ」


 面倒になってきたので、中川の腕を机から払いのけた。しかし、中川はしつこく机から手を離さない。


「おいおい、そりゃないだろ。有馬、夏休み中、連絡一つもなかったじゃん。友達と話したいとかそういうのないの? 久しぶりに会ったってのに」

「そういうお前だって連絡なかったじゃん」

「部活と塾で忙しかったから」


 言い訳はすぐに返ってくる。手のひら返しに呆れ、与鷹は不機嫌に眉をひそめた。

 その様子に、中川もようやくおどけた顔をやめた。目には少しだけ真剣さを帯びる。


「なんか、三年になってからのお前、性格キツくなったよなー。前はそんなじゃなかっただろ。どーした?」

「……受験のプレッシャーに負けそうなんだよ」

「本当にそんな理由?」


 適当なごまかしは通用しないようだ。与鷹は鼻を掻いた。その間にも中川の追及は止まらない。


「授業中は寝るし、昼休みも寝るし、遊びは断るし、口は悪いし、冷たいし、急に怒るし、ずっと眠そうだし」


 そして、彼は身を乗り出して声を低めた。


「体育の時は長ジャージだし。これ、言おうか迷ってたんだけどさ、お前、脇腹にあざ作ってただろ」

「いつ?」

「夏休みに入る前。部活やってるんならまだしも帰宅部だろ? どうやったらあんなとこ怪我するんだよって思ったけど、なんとなく聞けなかったんだよ」


 頬が引きつった。顔が痛いと思うほど、表情を保つのが苦しい。生きた心地がしない。与鷹は机に突っ伏した。


「おい、有馬。逃げるな」

「うるさい、あっち行け。頼むから」


 声を絞り出すので精一杯だ。顔を隠してしまえば、中川もお手上げといった様子で席を立つ。


「……あんまり思い詰めるなよ。なんかあったら言ってくれ」


 小さな声がくぐもって聞こえてきた。ちらりと顔を上げると、中川はもう目の前から姿を消していて、別の友人の輪へ入っていった。


 彼は信頼できる友人だと思う。でも、悩みを打ち明けるような間柄にはなりたくない。

 冷やかしあって、適当にゆるく付き合える都合のいい友人というポジションでいたかった。なんでも話し合える相手を学校にはつくりたくない。肩の力を抜いて、気楽に自由でいられる唯一の場所であってほしいから、急に込み入った話をされると拒絶してしまう。あれだけ我竜や響、町田には素直になれたのに。

 モヤモヤが渦巻くざわついた教室の中、突如、耳障りなドアの開閉音が鳴る。それまでにぎやかだった室内が静かになった。


「有馬ー」


 担任教師の声が聞こえる。どうやら教師の登場が室内の温度を下げたらしい。

 与鷹はすぐに顔を上げて椅子から立ち上がった。担任はやや不思議そうに困った表情で与鷹を手招きしていた。

 すぐに温度を取り戻す教室と、中川たちの視線を横目にすごすごと教室を出た。廊下に呼び出される。細面ほそおもての男性教師は、まっさらな志望校記入票を手に持っていた。


「これ、未提出だったけど、なくしたのか?」


 出し抜けに問われ、与鷹は息をつまらせた。しかし、両親のことを聞かれるかと内心では怯えていたので、むしろ拍子抜けだった。

 手持ち無沙汰ぶさたな手が無意識に鼻を触る。家の勉強机に置き去りにした記入票を思い出すと、教師に目を合わせられなかった。


「あー……はい。すみません。なくしました」

「じゃあ、これに書いて提出して。第三希望まできちんと書いてな」

「はい」


 手渡された記入票を受け取って、そそくさと教室に戻る。それを教師は引き止めるように言った。


「あ、あと、三者面談の日程希望もまだ出てないんだけど。そっちも早めに出してくれよ」

「……すみません」

「夏休み中は結局、一度も高校見学に行ってないよな? ご両親とは話し合ってるのか? できてないんなら、先生も間に入るから。こっちから連絡だけでも入れようか?」

「いえ、大丈夫です。ちゃんと言っとくので、すみません」


 慌ててまくしたてると、かえって怪しいだろうか。

 しかし、これ以上の追及は都合が悪くなる一方だ。どうしても逃げられない現実に直面してしまうも、とにかく今だけは逃れようと必死になる。

 このあからさまな焦りように、担任教師はやはり不審に思ったようで眉間にしわを寄せた。


「じゃあ、明日には出すように。待ってるから」

「はい」


 ドアを開けて教室に逃げ込む。

 クラス内の温度が高く、なるべく目立たないように自分の席に帰った。周囲を遮断しゃだんする。

 なんとなく視線を感じるが、誰も介入しようとはしなかった。中川も距離を置いている。今はその方がいい。

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