第III部 クリスマス・アベニューへ
第9話 常夕遊園地
夜になることのない、いつ迄も夕やけの国に一つだけ残された遊園地。
あらゆるものが――人も、メリーゴーランドも観覧車もお伽列車も――真っ黒な影絵のように動いている。人の声も音楽もない。
大観覧車の前のベンチに一人腰かけている、小さな女の子と出会う。
小さな女の子は、小さく泣いていた。確かに、それはその子自身の泣き声だった。
観覧車のすぐ後ろは、湖になっている。黒い水を湛えた大きな大きな湖だ。浮かんでいるボートや船の姿は見えない。この湖は、海へ続いているのだろうか。
――どうして、きみは泣いているのだい?
――あたしのヒヨコがいなくなっちゃったから……
――僕は……ヒヨコを追ってここへ来たんだっけな。
あれは……きみのヒヨコだったのかな。
――あたしのヒヨコ……つかまえちゃったの?
……たべちゃったの……?
――ううん、つかまえてない。見失ったよ。
青いヒヨコだ。
――それ、あたしのじゃない。ヒヨコきいろだもの。
あたしの手のひらに、ふんわりとのっかってたんだ……
――手を出してごらん。
きみに、僕が持っているものならあげよう。
ポケットに手を入れると、水に濡れたようになっていた。
ユママの宝石を取り出すと、それはほんのりと青い卵に変わっている。
女の子に、卵を手渡した。
――ヒヨコうまれるかなあ。
女の子は、泣きやんでいた。
この遊園地に朝が来れば……生まれるのかもしれない。
だけどここは
女の子はやがて冷たくなった卵を投げ捨てて、また泣き出してしまうだろうか。
あたりは、乗り場にも売店にも、明かりはついていない。地面も建物も、全ては真っ黒に連なっている。
時折、子ども達の笑い声や、きらびやかでどこか寂しげな名もない音楽が、空の方から聴こえてきそうな気がする。影絵の国の遊園地。
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