第10話 幼稚園の宵祭り
宵闇の中、遠くにほんやり浮かんでいる木造らしい舎屋がある。
近付いていくと、幼稚園の園舎らしかった。
園舎の中に明かりはついておらず、外のテラスにかかった蛍光灯が薄っぺらな光を放っているだけのようだ。十分に行き届いていない光のためか、それはどことなく仄かで青白い風景だった。
近くまで来ると、いつの間にか子ども達が駆け回っていて、ここでは人の顔も薄っすらと見えた。
テラスの脇にある園児用の足洗い場には、そこいっぱいにたくさんのヒヨコが放たれていた。
園長先生の声がして、
「どれでもいっこ、好きなのを選んで、おうちに持って帰っていいよ。ちゃんと育てられる子だけね?」
と言う。
集まってきた子どもらははしゃいで、みるまにヒヨコ達は子どもらの手に収まり、いなくなっていった。
母親達だろう、少し離れた壁のあたりに大人の影法師が集まっていた。
ヒヨコを手にした子らはそこへ駆けていき、親と一緒になると、めいめいの方向の闇の中へと消えていった。
ヒヨコは、明かりの加減だろうが、青い色をして見えた。
三匹程が残っていて、もう子ども達の姿はなく、ヒヨコは洗い場のタイルの上をうろうろした。
――あなたは、もらっていかないでいいのかい?
――……。
優しい先生だな。僕に迄声をかけてくれている。
壁の方には、もう誰もいない。
勿論、僕を待っている人も。
――僕はでも、ヒヨコを育てられません……
――……そう。いいんだよ? ……
先生は、ふっと影の中へ溶けるように消えていった。顔は最後までよく見えなかった。
足元に歩き回っていたヒヨコ達は皆、眠るような姿勢になり、目を閉じていった。
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